【番外編】それぞれのバレンタイン
※原作よりも前の世界軸です。水竜寺先生よりいただきました。ありがとうございます!
今日は年に一度のバレンタイン。どこかの国では想いを寄せる男性へと女性がチョコを贈り想いを伝える日らしい。
この国でも似たような文化があり、想いを寄せる人へ花を贈り想いを伝える日となっているのだ。
だが、元々の発祥は母親に日頃の感謝を伝えるため花を贈ったことが始まりとされている…
首都イリンシュレイ
ギルド【ハイマート】の一室。
「うん、よし!!」
ルアは姿見に映る自分の格好を確認すると、意気込み街へと繰り出す。
向かった先は想いを寄せる男性をよく見かける商店街。彼の姿を探すがどこにも見当たらない。
「今日は来てるはずなんだけどなぁ…?」
がくりと肩を落としどうしようかなと考えていると誰かに声を掛けられる。
「おや…ルアさん」
「ザックス!」
探していた人が目の前に現れ、緊張のあまり垂直に背を伸ばした。
ザックス、彼はルアが働くギルド【ハイマート】に数週間に一度来る客だ。彼女が好意を寄せている男性でもある。
「丁度良いところに」
「な、何~?」
丁度良いところにという言葉に期待をして頬を赤らめソワソワする彼女にザックスがにこりと微笑む。
「実は貴女に頼みたいことがありまして…花束を贈りたい方がいるのですが、何分このようなことは初めてなので自信がないのです」
「え、花束を贈りたい人…」
「えぇ、それで貴女に女性ならではの視点で選んで頂けないかと思いまして…」
彼の言葉にショックを受ける。自分ではなくて他に花を贈りたい相手がいるのだと解釈したルアは心で涙を流す。
(でも、ザックスの役に立てるなら!)
そう思いザックスへと視線を戻すと口を開く。
「分かったわ!私に任せて」
「ありがとうございます。では早速行きましょう」
胸をトンと叩き任せろと言う彼女に、彼が柔らかく微笑み礼を述べる。
そして二人は近くの花屋へと向かうとルアの女子力の元、花を選び花束が出来上がった。
彼女に選んでもらった花束を購入したザックスがルアに近づくとそっと彼女の髪に触れる。
「え…?」
驚いて髪に触れると、髪には一輪の花が挿さっていた。彼女と同じ髪色、淡い桃色の薔薇の花…
「今日はお付き合い下さりありがとうございました。コレは囁かな贈り物です」
ザックスが爽やかに微笑む。その言葉に一気に顔中に熱が集まったルアは恥ずかしさと嬉しさでその場を飛び出してしまった。
「!?ルアさん…」
急に飛び出して行ってしまったルアに驚いたザックスだが、優しく微笑み彼女の背中を見守るのだった。
「っ~~!きゃ~ぁッ恥ずかしい!でも嬉しい!」
その後店を飛び出し闇雲に大通りを駆け抜けていたルアは黄色い悲鳴をあげて思いっ切り拳を突き出す。
「おわぁっ!?」
すると誰かの驚いた声が聞こえてきた。
「アルファ!?」
そこに立って居たのは幼なじみのアルファでギョッとする。
「あぶねえだろ!いきなり殴りかかってくる奴があるか」
彼が睨み付けて言い放つ言葉なんか聞こえていないかのように直ぐに口を開く。
「…さっきの見てた?」
「は?何を…?今ここを通り掛かったの所でお前の拳が突き出てきたんだからな」
奇声を上げて拳を突き出した一連の言動を見られていないことにホッと胸を撫で下ろす。
「それよりちょうどよかった、ほら…」
そう言ってアルファが差し出してきたのは花束だった。
「え…?」
一瞬驚いたが、ふと幼少期の出来事を思い出し「あぁ」と納得する。
「私、もう子供じゃないわよ」
「別にいいだろ。毎年の事で習慣になってんだからな」
…あれは家族と離れ離れとなり孤児院にやってきたばかりの頃。孤独を感じて泣いていた自分に声を掛けてくれたのがアルファで、いつの間にか仲良くなっていた。孤児院で迎えた初めてのバレンタインの日、彼が街の外から花を摘んできて自分に差し出したのだった。
友情の証とか言って…
普段はぶっきらぼうだが、ちゃんと人の事をよく見ていては不意に優しくしてくれる。そんな幼なじみに何時しか孤独を感じて悲しくて泣いていた日々はなくなっていた。そして今ではこうして明るく振る舞えるまでになったのだ。
「ありがとね」
「さて、帰るか」
花束を受け取り小さく笑う彼女から視線を外した彼がそう言って帰路に着く。
その後を追いかけるようにルアも着いて行った。
***
その日の日が沈んだ頃の事。首都下町の人気の無い路地を進むザックス。そして一軒の小さな宿屋へと入っていった。
「あ、お兄ちゃんおかえりなさい」
と猫の獣耳が生えた10歳ぐらいの女の子が出迎えてくれた。
「サウス、貴女にコレを差し上げます」
ザックスはルアと選んだ花束を宿で待っていた彼女に渡す。
「わぁ~キレイな花がいっぱい。ありがとう!」
彼女は嬉しそうにはにかみそれを受け取った。
サウスがバレンタインの日に贈られる花束の意味を知るのはもう少し先の事である。