第4話④「良からぬ噂」Axis of Fate~大樹物語~
それからしばらくしてアルファ達はタスカーへと到着した。
馬車の荷台から顔を覗かせて外の様子を眺めるスゥ。
「ずいぶんと賑やかあるネ」
「大きな町ではないけれど、冒険者や観光客達の中継地点になっているから多くの人が集まるのよ」
ヨーンがそう言って教えた。
ここタスカーはちょうど王都イリンシュレイと副都ジンラグナの間にあるため、多くの人や物が集まっている。町の面積は中規模で、小高い丘に建てられ、坂道が急で高低差が激しい。都のように高い建築物はないが、教会や冒険者協会(ギルド)、市場があって賑わいを見せている。
しばらくすると見えてきた大広場で馬車は止まった。
「私はこれから商売しないといけないから、ここまででごめんなさいね」
「いや、助かった」
「有り難う御座いました」
ヨーンの言葉にアルファが言うとルアも頭を下げて感謝する。
「護衛してくれてありがとう。おかげで無事に町までたどり着けたわ。それじゃあね」
彼等が下りたことを確認すると彼女がそう言って馬車を走らせ立ち去っていった。
それからアルファ達はまず宿屋へと向かい滞在中の間の部屋を確保する。
荷物を下ろし終えたルアへアルファは声をかけた。
「あ、ルア。ちょっといいか?」
「ん、何?」
彼女が不思議そうに目を瞬き尋ねた。
「サウスのことなんだが…子供がマントを羽織っていては逆に目立ちすぎて危険だと思ってな…それで耳と尻尾を隠せるような服を新調してもらいたい。なんとかなりそうか?」
「そうね。私もそう思っていたの…分かったわ、何とかしてみる。任せておいて」
相談してきたアルファの言葉に同意するように話すとにこりと微笑む。
「頼むぞ。俺はスゥを連れてギルドに行ってくる。資金が無いんじゃ色々困るからな」
「うん」
旅の資金を稼ぐためにも仕事をしなくてはならず、服の事をルアに任せて彼はスゥを連れてギルドへ行くことを伝える。
「いったいどこ行くのカ?」
「ついてくれば分かる。お前の労働力が必要なんだ」
ギルドへと向かいながら聞いてくるスゥへとアルファがそう答えた。
「命の恩人の頼みなら何でも聞くヨ!」
「ああ、上手くいけば今夜はご馳走が食べれるぞ!」
彼女の言葉に彼がやる気を出してもらうために言葉巧みに話す。
「ご馳走あるカ!頑張るヨ!」
するとスゥは俄然やる気が出た様子で瞳を輝かせ力拳を作って見せた。
ギルドへと入っていくと受付へと向かう。
「いらっしゃいませ。ギルドへようこそ。本日はどのような御用でしょうか?」
「仕事を紹介して欲しい」
受付嬢が営業スマイルで応対するとアルファが仕事を探していることを伝える。
「畏まりました。それではプレートの確認を」
「ああ、これだ」
受付嬢の言葉にコートの両襟に渡すようにつけているネックレス状の飾りにしか見えないプレートを指した。
「シルバーですね。少々お待ちください」
受付嬢はプレートを確認すると部屋の奥へと入っていく。
そのプレートは個人のギルドランクが一目で分かるように作られていて、その色に対して受けられる仕事内容が変わるような仕組みとなっている。
「アルファ。そのプレートって何あるカ?重要あるカ?」
「この国ではプレートを持っていないとギルドでの仕事が受けられない仕組みになっている。で、プレートの色で依頼(クエスト)の種類が変わるんだ。俺はシルバープレートだからB級クラスまでの仕事なら受けられるんだ」
興味深げにスゥが聞いてきたので彼は説明した。
「へぇそういうことなのネ」
しばらくすると受付嬢が数枚の紙を持ってきた。
「あなた様が受けられる仕事はこちらになります」
仕事の一覧が表示されている紙を渡されると、アルファはその内容に目を通す。
退治依頼や採取依頼、護衛依頼など様々な内容が書かれている。
「あんまり町から離れないクエストのが良いから、この周辺に出没する魔物退治にしておくか」
アルファが言うとクエストを選ぶ。
「それではこちらに記載されている魔物の退治をお願い致します」
受付嬢がそう話すと仕事内容の登録が完了した。
「よし。スゥ早速向かうぞ」
「分かったあるヨ。どんな仕事でも任せるネ」
ギルドから出ると彼がそう声をかける。スゥが頷くと二人で町周辺に出没する魔物の討伐へと向かった。
その頃、ルアはサウスの新しい服を作るための布を買いに市場へと訪れていた。
(なるべく今の服装を崩さずにした方が良いのかな?同じようなパーカーとズボンを買って…フードは猫耳のようにして、それから腰からくるぶしまでの長い腰巻型のスカート…そうねフィッシュ・テールスカートみたいな感じにして見たらいいんじゃないかしら?…それとリボンもつけちゃおう!絶対可愛いわ!)
あれやこれやとアイデアを考えながら服飾屋へと向かう。
「サウスはオレンジ色の服を着ていたから。それと同じ色を選んだ方が良いわよね」
色とりどりの服や布が並ぶ棚を見ながら考えをまとめると材料を必要な分だけ購入し宿屋へと帰っていく。
「さて、アルファも頑張っているだろうし私も頑張ろっと!」
机の上に広げた服と布を見やり意気込むと裁断を始めた。