小説「Axis of Fate」

案/絵/編集:たみぽん。文:水竜寺葵。オリジナルファンタジー小説。更新は約月1ぐらいです。

第5話①「噂の真相」Axis of Fate~大樹物語~

ジンラグナの領主が裏を飼っているという噂話の真相を確かめるためにその街へとやってきた。

タスカーから南東の一本道の街道を行くと海へと出る。海沿いの少し離れた沖に孤島が見える、それがジンラグナだ。

島全体が街になっており、高波の対策のためだろうか、島の周りは高い塀で囲まれている。

その島に渡るには陸地から島まで繋がっている長い石橋を渡らなければならない。そこしか街への行き来ができないのだ。

交易が盛んな街でここには色々な品物が集まっているためか、橋には多くの人々や馬車がひっきりなしに行き交っている。

 

「ここがルアの故郷なの?」

「そうよ。お父さん達がいたころはここで暮らしていたの」

 

サウスが初めて見る港町に興味深げに首を振りながら尋ねる。それにルアが大きく頷き答えた。

 

「とりあえず空いている宿を探して荷物を下ろしてから、屋敷に向かいましょ」

彼女の言葉に皆は頷くと宿を探しに行く。幸い空いている宿はすぐに見つかり、初めての島国に興奮するサウスのためにも少しだけ中心街を見て回ることになった。

「すごい賑やかネ」

「ほんと、人が沢山だね」

「だけど昔と比べたらそれほどでもないわよ」

 

スゥが言うとサウスも行き交う人々を見ながら呟く。

二人から見れば王都並みに賑わっているみたいだったが、ルアが言うには昔ほどにぎわってはいない様子で、スゥとサウスはそうなのかといった感じで不思議そうにする。

 

「この大通りを抜けてもっと島の奥に行ったところに屋敷があるの」

 

ルアが説明すると大通りを抜けて高級住宅街のあるエリアへと入る。その向こうには石畳の道が続いていてそこを抜けて行くと大きな屋敷が見えてきて、その建物の前でルアの足は止まった。

 

「ここが私が昔住んでいた屋敷よ」

「話には聞いていたがでかい屋敷だな」

 

ルアが住んでいたという屋敷を眺めながら説明を受けたアルファは呟く。

彼女の話によると今は屋敷で働くメイド達の寮として使わせれているそうだ。

 

「お嬢様ではありませんか?」

「その声は……」

 

屋敷の前に立って見詰めていると誰かに声をかけられルアはそちらへと視線を向ける。

彼等の後ろには金髪で小柄な体のメイド服姿の女性が立っていた。

 

「お久しゅうございます。お嬢様」

「コリーも元気そうね!」

「誰だ?」

 

嬉しそうに駆け寄ってきた女性とにこやかに会話する彼女へとアルファが小突いて尋ねる。

 

「私のお父さんに仕えていたメイドよ」

 

声をかけてきた女性は昔前領主であったルアの父親に仕えていたメイドの「コリー」だった。現在も領主、つまりルアの叔父の下で働いている。

 

「はじめまして。私はコリーと申します」

「アルファだ」

 

綺麗にお辞儀して挨拶するコリーにアルファも名乗る。

 

「貴方はもしかして、お嬢様のコレなのですか?」

「「はぁっ!?」」

 

にこやかな笑顔で小指を立てて話す彼女の言葉に二人は盛大に驚き同時に声をあげた。

 

「ち、違うわよ……前に言ったでしょ。孤児院で一緒の…」

「ふふ……冗談ですわ。慌てちゃってお嬢様可愛い」

「もう……」

 

慌てて答えるルアへと意地悪く微笑みコリーが答える。それに彼女は怒りと呆れで呟きを零し恨めしそうな瞳で睨みやった。

 

「そういえば……今日はお2人で何用ですか?」

「「2人?」」

 

コリーの言葉にアルファとルアは怪訝に思い背後にいるはずのサウス達の方へと振り返る。

 

「あれ、さっきまで一緒だったのに、まさかはぐれた?」

 

気が付くと先ほどまで後ろにいたスゥとサウスの姿が見えない。その様子にルアが慌てる。

 

「あいつ等!」

 

アルファが舌打ちすると慌てて来た道へと戻っていく。

 

「ごめんコリー、仲間がはぐれちゃったみたいなの。また今度ゆっくり話しましょ」

「はい。お気をつけて……お嬢様、元気そうで何よりですわ」

 

彼女も彼の後を追いかけていく。その後ろ姿へと言葉をかけ見送ると一人きりになった空間でコリーは呟き微笑んだ。

 

来た道を戻りサウス達を探すアルファとルア。

 

「何用カ!」

 

すると路地の方からスゥの警戒した声が聞こえてきた。

 

「今のはスゥの声だな」

「何かあったのかしら?」

 

彼女の声に2人は何かあったのではないかと思いそちらの方へと急行するのだった。

第4話⑩「良からぬ噂」Axis of Fate~大樹物語~

アルファ達が猫探しをしているその頃、ルアは旅支度のために市場を歩いていた。


「あら、貴女。また会ったわね」


必要な物を買いそろえていると再びヨーンに出会う。


「あ、ヨーンさん。ここにいたんですね」


笑顔で声をかけられ彼女もそちらへと近寄っていった。


「良かったら見て行ってね」

「はい」


彼女の言葉に品物を見る。ヨーンの店に並べられている商品は主に金属製のペンダントやブローチ等、この辺りでは見かけない綺麗で繊細な細工ばかりだった。


「綺麗…」

「ありがとう…そうそう、旅人さんからこんな話を聞いたのだけれど… …」


綺麗なアクセサリーを見ていると彼女から気になる話を聞く。


「!?」


その言葉にルアは目を大きく見開いた。


「… …そう、ですか。教えてくれて有難うございます」

「えぇ。貴女達の旅に、女神ノエル様のご加護があらんことを…」


ヨーンにお礼を言って別れようとすると彼女がそう言って優しく微笑んだ。


※※※


そして猫を町長へと引き渡し、アルファ達はギルドへ依頼の完了報告をしにきていた。


「おい、あの話聞いたか?」

「ああ。…あれだろ。全く気が狂ってるって思うよな」

「どうなることやら…」


ギルドの待合室で冒険者達がある噂話を語り合っている。


「何の話だ?」


それが気になったアルファが声をかけた。


「知らないのか?… …」


冒険者の一人があの噂を聞いていないのかと言いたげに口を開く。


「!?」


その言葉に息を呑んだ。

その後宿へ戻ってきたアルファ達とルアが合流すると今日聞いた噂話について語り合う。


「あのね、さっき市場に行った時、ヨーンさんからある話を聞いたんだけど…」

「俺も話を聞いた…俺が聞いた話とルアが聞いたって言う話は同じだと思っている…」

「えぇ…」


幼馴染通しお互い色々な言葉を言わなくてもわかり合っている様子で小さく頷き合う。


「ジンラグナの領主が裏(アーディッシュ)を捕らえているって話だ。そのジンラグナはお前の…」

「うん。私の叔父さんが治めてる街よ」


アルファの言葉に頷くとルアも語る。


「十二年前まではお父さんが治めてたんだけど…家族皆が行方不明になってからは弟の叔父さんが治めたの。だけどね…その事が切っ掛けで私は孤児院に送られたのよね…」


彼女はジンラグナの前領主の娘だったのだが、十二年前に両親が行方不明になって以来叔父がその地を治めているのだった。


「そうだったの?」

「なんと!どうして叔父さんはルアを引き取らなかったネ?」


驚いた顔でサウスが言うとスゥが尋ねる。


「それは…跡取りとしては幼過ぎるっていうのもあったと思うけど、それ以前に私の事が邪魔だったんだと思う」

「でも身内を孤児院に送るなんて酷い叔父さんヨ!」


瞳を伏せて語ったルアの言葉に彼女は憤る。


「とにかく、私の故郷で起こっているし、その話が本当なのかどうか、真相を確かめたいのよね」

「そうだな。領主が本当に裏を捕らえているのかどうか確かめないと、お前の気もすまないだろ?」


彼女の言葉にアルファが同意すると力強い口調で言う。

ルアの故郷で起こっているその噂の真相を確かめるためにアルファ達はジンラグナへ向かうことにしたのだった。


to be continued...

第4話⑨「良からぬ噂」Axis of Fate~大樹物語~

そしてしばらくの間、見つけては逃げられ…見つけては逃げられ…を繰り返しいっこうに摑まる気配がない。しまいにはエリザベスを見失ってしまいそれぞれ手分けして町の中を探し歩いた。

 

「エリザベスちゃん見つかった?」

 

町中を走り回ったサウスがアルファとスゥに合流し息を弾ませながら尋ねる。

 

「あれ…」

 

息を切らしたアルファが指さした先には家の屋根で大あくびをしているエリザベスがいた。

 

「全然摑まらないネ…」

 

彼が言うと合流したスゥも走りつかれて荒い息になった声で言う。

 

「ボクが行ってみるよ。エリザベスちゃんにお家に帰ってもらえるように話してみる」

「はっ?猫と話すって…」

 

サウスの言葉に彼が驚きと呆れた様子で呟く。

 

「ボク、動物の言葉が分かるんだ。しばらくは森の中で暮らしていたけどお兄ちゃん意外に人間の友達はいなかったから、森の動物たちが友達だったんだ。だからエリザベスちゃんとだってお話しできるよ。だからボクが話して帰って来てもらえるように頼んでみる」

 

彼女がそう言うと驚かさないようにとそっとエリザベスがいる屋根の下まで歩いていく。

 

「エリザベスちゃん。ご主人様が心配してるよ。だからお家に帰ってあげて」

「え?ご主人様が心配してるの…う~ん。ちょっと外で遊んでいただけなのに。でもご主人様が心配してるのか。でもでも、もう少しここでのんびりしたいしな~」

 

建物の下へ行き猫に声をかけるとエリザベスが驚いて目を大きく見開くも今度は目を細めて考え深げな顔をした。

 

「そんなこと言わないでお家に戻ろうよ。町長さんが心配してるから」

「おや、君は言葉が分かるの?」

 

サウスの言動にエリザベスの方も驚きと興味深げな眼差しで彼女を見て話しかけてくる。

 

「人間は言葉が分からないものかと思っていたけどそうじゃない人もいるんだね」

「うん。エリザベスちゃんが何をしゃべっているのか分かるよ。ボクは昔から動物とお話しができてたから」

「エリザベスって名前あんまり好きじゃないんだ。だって男の子なんだもん。でもご主人様が必死に考えて付けてくれた名前だから文句は言えないんだよね」

「へ?オスなの……」

 

サウスの言葉に不機嫌そうな顔をするとそう言って困ったといった感じで話す。その言葉にエリザベスがオスであることに驚く。

エリザベスと言う名前とピンクの可愛らしいリボンを付けていることから、メスだと思い込んでいたのだ。

 

「君達ずっと追いかけて摑まえようとしてたでしょ。だから必死に逃げてたんだ。だって人間につかまったら何されるか分からないって友達が教えてくれたから。それに家の中は窮屈で…もう大人だから外で自由に遊んだりのんびりと日向ぼっこしたりしていたいんだよ…」

「だけど君のご主人様は君のことをずっと心配してるんだよ。だから君を探してつかまえるように頼まれたんだ」

「そっか。それでずっと追いかけてきたんだ。う~ん。…わかったお家に帰るよ」

 

しばらく話をしているとエリザベスは屋根から降り、自分からサウスの下へと近づき彼女の腕の中にすっぽりと収まった。

 

「「?」」

 

その光景を遠くから眺めていた二人はあれほど逃げ回っていたエリザベスが自分から彼女の腕の中へと飛び込んだことに不思議に思い首を傾げる。

しかしこれでようやくクエストを終える事ができると何故かほっとした気持ちになるのだった。

第4話⑧「良からぬ噂」Axis of Fate~大樹物語~

ギルドへと到着すると早速サウスが一緒でもできそうな下級依頼を探した。

 

「これとかいいんじゃないかな?」

「これもいいと思うアル」

「こっちのもいいかもしれないぞ」

 

一覧を皆で見てこれがいいんじゃないかとあれこれ考える。

 

「でもこれは、ちょっと…」

「フードを取られでもしたら大事になっちまう可能性があるしな…」

 

考えすぎて眉間に小さなしわを寄せてサウスが言うとアルファも彼女の正体がバレてはいけないと話す。

 

「じゃあ、この猫(マオ)様捜しはどうあるカ?」

 

スゥが一つの依頼を指した。

 

「マオ…あぁ猫か」

 

それは猫を捜してほしいという依頼だった。

 

「そうだな。それなら簡単そうだし良いんじゃないか?」

「これならボクでもできそうだね」

 

二人もそれならいいかもしれないと頷き合う。

こうしてアルファ達は猫探しのため詳しいことを尋ねに依頼主である町長の家へと向かった。

 

「依頼を受けてきたんだが、町長、詳しいことを教えてくれないか?」

「わしが可愛がっているエリザベスちゃんが昨日、家から出て行ってしまってのぅ…探してもどこにも見当たらなくてな。それで依頼をしたというわけじゃ」

 

アルファの言葉に町長は心配でたまらないと言った顔で説明する。

 

「その猫の特徴を教えてくれないか?」

「エリザベスちゃんは白いふわふわの毛並みにブルーの瞳の愛らしい子じゃよ。頭にはピンク色のリボンを付けているんじゃ」

 

アルファが尋ねると町長がそう情報をくれた。

 

***

 

「飼い猫となると町からは出てないだろうから、まずはこの近辺から探すか…」

 

アルファ達は聞いた話を基にその特徴に合う猫探しを始める。

 

「そうだね。怪我とかして動けなくなっているだけかもしれないし」

「それとも遊びに夢中になってるとかかもしれないあるヨ」

 

それにサウスとスゥが頷きまずは家の近辺から探すことにする。

 

「あ、いたよ」

 

と早速、町長の家から数十メートル離れた建物の軒下で昼寝をしている毛の長い白い猫をサウスが見つけた。耳の所には町長が言っていたように頭部にピンクの可愛いリボンが付いている。

 

「よし、エリザベス。そのままじっとしててくれよ」

 

っ!にゃぁ!

 

アルファがそっと近寄り摑まえようと手を伸ばすも猫は慌てて逃げ出す。

 

「あ!逃げたヨ!」

 

スゥが叫ぶように言うと慌てて猫を追いかけたのだった。

第4話⑦「良からぬ噂」Axis of Fate~大樹物語~

そしてアルファ達が町に滞在して丸2日が経過し、ルアが作っていたサウスの新しい服が完成する。

 

「サウス。ちょっとこれを着てみてくれないかしら?」

「へ?」

 

にこにこと笑いながら彼女の前へと服を差し出す。意図が分からずサウスは呆けた顔をした。

 

「アルファがね、そのローブで町を出歩くのは目立つからって。私があなたの新しい服を作ったのよ」

「そうだったの?」

 

ルアの言葉でようやく理解ができた彼女が嬉しそうに仕上がったばかりの服に袖を通す。

基本は今までの服に猫耳フードとズボンにはフィッシュテールスカートを付け、胸の中心とアームカバーには可愛らしいリボンが付いているデザインだ。

「サウス様、可愛いあるヨ!」

「うん。思った通り似合ってるわ。ねえ、アルファもそう思うでしょ?」

 

スゥがハートを飛ばしながら言うとルアも微笑みアルファに同意を求める。

 

「ああ。この格好なら誰にも耳と尻尾の事がバレないだろうな」

 

それに彼が頷くとそう話して笑う。

 

「嬉しいな。アルファ、ルア。ありがとう!ボクこの服を着て外に出て…あ、そうだ!ねえボク、アルファと一緒にクエストしてみたいな」

 

新しい服に浮かれてはしゃぐサウス。

 

「はっ?…あー、そうだな。せっかく新しい服に着替えたんだし外に出てみるのもいいかもな」

 

エストに一緒に同行したいと頼まれ一瞬驚いたものの小さく頷き了承する。

 

「それなら今日は皆で行くあるヨ」

「でもいきなりサウスにクエストって難しいんじゃない?」

 

スゥがそう提案する横でルアが考え深げに話す。

 

「まあ下級クラスくらいならいけるだろう。さすがに戦うのは難しいと思うから町の中でのクエストとか、か…」

 

それにアルファがそう答えると、とにかくギルドへ行ってから仕事内容を見て決めようということになった。

 

「じゃあ私は市場に買い物に行ってくるわね。旅支度を整えておかないと」

「わかった。そっちは任せるぞ」

 

ルアが言うとアルファはサウスとスゥを連れて宿を出たのだった。

第4話⑥「良からぬ噂」Axis of Fate~大樹物語~

翌日。ギルドに向かう前に本屋へと立ち寄り初級魔術書を数冊購入する。そして再び宿屋へ戻るとそれをサウスへと渡した。

 

「これで魔術の基礎を覚えておけ。読み終わったら魔法の猛特訓だからな、覚悟しておけよ」

「ありがとうアルファ。うん、ボク頑張って覚えるね」

 

宿屋で待つサウスに本の内容を覚えておくように言うと彼女が嬉しそうに笑い力強く頷く。

 

「それじゃあ、俺達はギルドに行ってくるからそれ読みながら待ってるんだぞ」

「うん」

 

彼が言うと踵を返して部屋から出ていく。その背中へと向けてサウスは大きな声で答えた。

 

「今日は何を受けるあるカ?」

 

宿を出てギルドへと向かう最中スゥが尋ねてくる。

 

「採取クエストでも受けるか。それともまた討伐か…まぁ仕事内容と報酬によるな」

「仕事内容と報酬が違うケド、どう違いあるカ?」

 

アルファがそれに答えると彼女は不思議そうに首を傾げた。

 

「やっぱり依頼人によって掛けられる金額が違うし期日も違う。この町に長く滞在するわけじゃないからできるだけ早く終わる依頼を選びたいからな。だから短期間で稼げる仕事に限るな」

「成る程…よく分かったヨ。つまり一攫千金あるネ!」

 

すらすらと説明された言葉に納得した様子で頷くスゥ。

 

「一攫千金ではないんだが…まぁ、いいか」

 

しかし微妙に勘違いしていることに説明するのも面倒だと思った彼が呟くと黙り込む。

そうしてギルドへとやって来ると今日受けられる仕事を探し登録する。

 

数十分後アルファ達の姿は町の外にあり彼等の背中には子供が一人、軽々と入るくらいの大きさの籐籠を背負っていた。

 

「町周辺に生息しているマイマイ茸を籠一杯に採取…で、よかったカ?」

「ああ。マイマイ茸はうっそうとした森の中の湿った場所に生息するキノコだ。でも似ている毒キノコがあるから間違えるなよ」

 

スゥが仕事内容の確認をしてきたのでアルファはそれに答えると説明する。

 

「ワタシの鼻に任せるあるヨ。さっき貰ったこのマイマイ茸の匂いを嗅いで…」

 

彼女が任せろと言わんばかりに先ほど見本だと言ってもらった乾燥したマイマイ茸を取り出し匂いを嗅ぐ。

 

くんくん…

 

「うん、覚えたアル」

「お前は犬か!…まあいい。探しに行くぞ」

 

その様子に彼が盛大に突っ込むも気を取り直して森の中へと入っていく。

 

「検索開始アル!」

 

スゥも元気いっぱいに宣言すると生息場所である湿った場所へと向けて歩き出した。

スゥの人間離れした嗅覚により難なくマイマイ茸けをゲットし、町へと戻りギルドで採取したキノコを渡し報酬を貰い宿へと帰った。

そしてアルファ達が町に滞在して丸2日が経過し、ルアが作っていたサウスの新しい服が完成する。

 

「サウス。ちょっとこれを着てみてくれないかしら?」

「へ?」

 

にこにこと笑いながら彼女の前へと服を差し出す。意図が分からずサウスは呆けた顔をした。

 

「アルファがね、そのマントで町を出歩くのは目立つからって。私があなたの新しい服を作ったのよ」

「そうだったの」

 

ルアの言葉でようやく理解ができた彼女が嬉しそうに仕上がったばかりの服に袖を通す。

基本は今までの服に猫耳フードとズボンにはフィッシュテールスカートを付け、胸の中心とアームカバーには可愛らしいリボンが付いているデザインだ。

 

「サウス様、可愛いあるヨ!」

「うん。思った通り似合ってるわ。ねえ、アルファもそう思うでしょ?」

 

スゥがハートを飛ばしながら言うとルアも微笑みアルファに同意を求める。

 

「ああ。この格好なら誰にも耳と尻尾の事がバレないだろうな」

 

それに彼が頷くとそう話して笑う。

 

「嬉しいな。アルファ、ルア。ありがとう!ボクこの服を着て外に出て…あ、そうだ!ねえボク、アルファと一緒にクエストしてみたいな」

 

新しい服に浮かれてはしゃぐサウス。

 

「はっ?…あー、そうだな。せっかく新しい服に着替えたんだし外に出てみるのもいいかもな」

 

エストに一緒に同行したいと頼まれ一瞬驚いたものの小さく頷き了承する。

 

「それなら今日は皆で行くあるヨ」

「でもいきなりサウスにクエストって難しいんじゃない?」

 

スゥがそう提案する横でルアが考え深げに話す。

 

「まあ下級クラスくらいならいけるだろう。さすがに戦うのは難しいかと思うから町の中でのクエストとか、か…」

 

それにアルファがそう答えると、とにかくギルドへ行ってから仕事内容を見て決めようということになった。

 

「じゃあ私は市場に買い物に行ってくるわね。旅支度を整えておかないと」

「わかった。そっちは任せるぞ」

 

ルアが言うとアルファはサウスとスゥを連れて宿を出たのだった。

第4話⑤「良からぬ噂」Axis of Fate~大樹物語~

町周辺の魔物を討伐依頼を受けたアルファ達は郊外で、猪型の魔物との戦いを行っている最中だった。

 

「スゥ俺が正面からいくからお前は回り込んで奴の背後を狙え!」

「分かったヨ!」

 

彼が指示を出すと彼女は了承し走り出す。

 

「ほら、これでも食らえ!」

 

ひと際巨大な猪の魔物へと右手を振りかざし真空波を放つ。

 

「グルルゥ」

 

それを受けた魔物が標的をアルファ一人に絞り込み突進してきた。

 

「おっと」

「行くあるヨ。はぁぁあっ!」

 

彼がそれを避けている間に背後に回り込む事に成功したスゥが隙だらけの魔物の背中へと棍を突き出し、三回連続で叩き込むと最後に回し蹴りを繰り出した。

 

「ブギャアッ」

 

蹴り飛ばされた魔物は木に思いっきり体当たりする形となり気絶する。

 

「いまだ。食らえ!」

 

アルファが止めだとばかりに剣を突き出すと胸をを一突きに貫いた。

 

「ブギャアアァッ…」

 

断末魔を上げ、黒い塵と化していく魔物。

 

「ふぅ…終わったな」

「アルファ。これでクエスト終了あるカ?」

 

息を吐き出し構えを解いた彼の下へと駆け寄ってきた彼女が尋ねる。

 

「ああ。こいつがこの辺りに出没する魔物のボスっぽいしな。しばらくの間は町に魔物も寄ってこないだろう」

「それじゃあお仕事達成あるネ!」

 

それに頷くとスゥが嬉しそうに笑顔になり言った。

 

「思った以上に時間がかかっちまったな。ギルドに報告に行くか」

「どんなお仕事でも任せるヨ。美味シイご馳走のためニ!」

「… …」

 

アルファの言葉ににこやかな笑顔で彼女が返事をするが、彼は呆れて黙り込んだ。

 

(スゥの意識が飯以外に向いてくれればありがたいんだが…まぁ、戦力になってくれているからいいか…)

 

内心で呟くとスゥに気付かれないように小さく溜息を吐き出す。

そうして滞在一日目の夜はあっという間に過ぎ、稼いだお金で宿代と夕食代を支払う。

久々にまともな夕食にありつけたアルファ達はご馳走を平らげるとアルファは一人部屋にルア、サウス、スゥは大部屋へと別れてこの日は眠りについた。