第3話④「異国の少女」Axis of Fate~大樹物語~
しばらく歩いていると、前方の道に何か赤い物体が横たわっているのが見えてくる。近付くにつれてそれが人であることに気付いた。
「あ!アレ…誰か倒れてるよ」
サウスが見つけて駆け寄っていった。
「大変!怪我してるのかも!?」
ルアも慌てて駆け寄っていく。
「ちょっと待てよ!魔物にやられたのかもしれない。周囲に気をつけろよな」
一人だけ冷静なアルファが周囲を気にかけながら近寄っていった。
うつぶせに倒れている者をルアが抱きかかえ声をかけた。
「大丈夫?」
倒れていたその者の顔は、まだ幼さの残る十代後半ほどに見える少女だった。赤い服や黒髪をサイドで結んでいる大きな装飾はこの国のものとは違い、例えて言うなら中国系のチャイナ風の衣服を身に纏っていた。おそらくだがこの地、イリンシュレイ国の者ではないだろう。
だが、身体に外傷はなく、魔物に襲われたわけではないようだ。
「う…うぅ…」
「お姉さん、どうしたの?怪我してるの?」
少女が小さくうなる様子にサウスが尋ねる。
ぐぅうう~…
するとその瞬間、静かな空間に鳴り響くお腹の音。
「「「… …」」」
三人は無言で少女の姿を見詰めた。
「うぅ…お腹…すいたぁるヨ」
か細い声で呟いた少女の言葉は、少し訛り口調でイリンシュレイで使われている言葉を発した。どうやら彼女はお腹が空き倒れていたようだった。
「生き倒れかよ…」
彼女の言葉にアルファが呆れる。
「あはは…じゃあ有る食料で何か作るわね」
ルアも苦笑すると荷を下ろし調理道具と食材を取り出し料理し始めた。
「できたわよ…!?」
簡単に作ったサンドイッチを持って少女の方へと向かおうとした途端。手に合った重みが消える。
はぐはぐもぐもぐ…むぐむぐ、はぐもくむむ…
先ほどまで倒れていたはずの少女が勢いよく料理を食べ始めたかと思うと、
「おいしいあるヨ!お代わりネ!」
お代わりを要求してくる。
「お姉さんそーとーお腹がすいてたんだね…」
「ちょっと待ってて!もう一回作って来るから」
呆気にとられるサウスの横でルアが慌てて料理を作り足す。
はぐむぐむぐ、もぐもぐはぐむぐむぐ…
作っても作っても少女の手が止まることはなく気が付くと食料が入っていたカバンの中身はいつの間にか空になっていた。
「全部…食べちゃった…」
「凄い食欲だな…」
お腹をさすり満足する少女の様子にサウスが驚き呟く横でアルファも呆れ果てた様子で言う。
「いぁ~助かったヨ。食料が底をつきてもうダメかと思っていたケド、にぃ(あなた)達のおかげで助かったネ。ワタシはシン国から来たスゥっていう名あル。本当に助かったヨ。アリガトネ!」
一人で捲し立て三人へと感謝の気持ちを述べるスゥ。彼女の衣服や口調からこの国の者ではないことは察していたが、このイリンシュレイより東の大陸にあるシン国から来たようだ。
そして彼女は途端に無言になり、マントを羽織りフードを目深に被っているサウスへと視線を向けじっと見つめる。
「……」
「っ!?」
その様子に彼女は正体がばれるのを恐れ硬直した。
「な…何?」
「そんなの被ってたら、かわいい顔が見えないヨ!」
ひきつった顔で尋ねるサウスの様子など気にした感じもなくスゥが言うと彼女がフードを捲り、隠していた部分を晒しその姿を見る。
「あ…!!」
「!?…ま…」
姿を見られてしまったと焦るサウスだが…
「マオ神様だったあるカ!なんという失礼ヲ…」
彼女は蔑むどころかいきなり地面にひれ伏し、手を合わせて祈る様に拝んだのだった。