第2話⑧「ラウルス遺跡」Axis of Fate~大樹物語~
薄暗い部屋にルアがかけた魔法の淡い光がふわふわと漂っている。
「これを焚けば魔物は寄ってこないから、大丈夫よ」
彼女は魔物除けの為の香を焚き、少女へ向けて安心させるように話す。
「はい、アルファはこれ飲んで」
そして、アルファには煎じた毒消し草を飲ませた。
「あなたの怪我も治すから診せて」
ルアが少女の側へと寄ると治癒術をかけようとする。近寄られた時、少女は一瞬怯えたように肩を跳ね上げたが、治療を嫌がる事なく受け入れた。
「大地に満ちたる命の躍動、汝の傷を癒せ」
呪文を唱えると淡く温かい光が少女の全身を包み込んだ。小さい切り傷や擦り傷はたちまちと治っていく。
「ありがとう、お姉ちゃん…」
少女は小さな声で呟く様に礼を述べる。しかし、少女は部屋の隅に膝を抱えた状態で座ったまま、フードを深く被り顔を見せないようにしていて、未だに怯えている様子だった。
「そう言えばまだちゃんと名乗ってなかったわね?私はルア。そっちのアホ面で寝てるのはアルファよ」
怯えている少女へとルアは笑顔で話しかける。
「誰が…アホ面だ」
彼女等に背を向けて横になっていたアルファだが、ルアの言葉にしんどそうな様子ながらも静かに反論した。
「あら?起きてたのね」
「息しづらくて、寝てられっかよ…」
そんな彼へとクスリと笑いながらルアが言う。それにつらそうな口調でアルファが答える。
「くすっ…」
ルア達のやり取りに小さく微笑んだ少女は少しだけ警戒を解いてくれたようだった。
「ボクは…サウスだよ」
「サウスっていうのね。何でこんな所に?」
ようやく笑ってくれた少女が名乗ると、ルアが何故こんな所にいるのか尋ねる。
「くうかんのはざま…」
「!?」
サウスの言葉にルアは驚く。まさか少女の口から“空間の狭間”という言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
「まさかあの場所から!?」
「ううん…ボクは、そこを目指してるんだよ」
驚き尋ねる彼女へとサウスは首を振って否定すると答える。
「…あなたもなのね」
「お姉ちゃん達も?」
静かな口調で言ったルアの言葉に少女は不思議そうに尋ねた。
「そうね…目的は…」
「王様が言ってた管理するものをはいじょするためだよね」
「えぇ。あなたもあの場にいたのね」
同じところを目指しているという目的は同じだと頷くルアに、サウスは聞いた話を思い出しながら言う。その言葉に彼女は小さく頷いた。
「うん。でもボクはちょっと違うかな。会いにいくんだ」
「会いに?」
少女の言葉に管理する者に会ってどうするのだろうかと不思議そうにルアは首を傾げる。
「…この、人とは違う姿。この理由を知るために…」
「… …」
己の両の手を見詰め暗い表情で呟かれた言葉に、ルアは何も言えずに黙ってサウスを見詰めた。
「ボクが何なのか知りたいんだ…こんな姿したくてしているわけがないのに…」
少女は襲われたことを思い出したのか、小さくうずくまり震えだす。
「大丈夫。もう大丈夫だから。私達が守ってあげる。だからもう大丈夫よ」
ルアはサウスの頭を優しく擦り、もう大丈夫だからと何度も言って慰めた。
「お姉ちゃん…」
少女は堪えていた涙をついに流し、彼女の優しさに甘えるように胸に縋りついて泣きじゃくる。
「… …」
その様子をアルファはただ横目で見ているだけだった。