小説「Axis of Fate」

案/絵/編集:たみぽん。文:水竜寺葵。オリジナルファンタジー小説。更新は約月1ぐらいです。

第4話④「良からぬ噂」Axis of Fate~大樹物語~

それからしばらくしてアルファ達はタスカーへと到着した。

馬車の荷台から顔を覗かせて外の様子を眺めるスゥ。

 

「ずいぶんと賑やかあるネ」

「大きな町ではないけれど、冒険者や観光客達の中継地点になっているから多くの人が集まるのよ」

 

ヨーンがそう言って教えた。

ここタスカーはちょうど王都イリンシュレイと副都ジンラグナの間にあるため、多くの人や物が集まっている。町の面積は中規模で、小高い丘に建てられ、坂道が急で高低差が激しい。都のように高い建築物はないが、教会や冒険者協会(ギルド)、市場があって賑わいを見せている。

しばらくすると見えてきた大広場で馬車は止まった。

 

「私はこれから商売しないといけないから、ここまででごめんなさいね」

「いや、助かった」

「有り難う御座いました」

 

ヨーンの言葉にアルファが言うとルアも頭を下げて感謝する。

 

「護衛してくれてありがとう。おかげで無事に町までたどり着けたわ。それじゃあね」

 

彼等が下りたことを確認すると彼女がそう言って馬車を走らせ立ち去っていった。

それからアルファ達はまず宿屋へと向かい滞在中の間の部屋を確保する。

荷物を下ろし終えたルアへアルファは声をかけた。

 

「あ、ルア。ちょっといいか?」

「ん、何?」

 

彼女が不思議そうに目を瞬き尋ねた。

 

「サウスのことなんだが…子供がマントを羽織っていては逆に目立ちすぎて危険だと思ってな…それで耳と尻尾を隠せるような服を新調してもらいたい。なんとかなりそうか?」

「そうね。私もそう思っていたの…分かったわ、何とかしてみる。任せておいて」

 

相談してきたアルファの言葉に同意するように話すとにこりと微笑む。

 

「頼むぞ。俺はスゥを連れてギルドに行ってくる。資金が無いんじゃ色々困るからな」

「うん」

 

旅の資金を稼ぐためにも仕事をしなくてはならず、服の事をルアに任せて彼はスゥを連れてギルドへ行くことを伝える。

 

「いったいどこ行くのカ?」

「ついてくれば分かる。お前の労働力が必要なんだ」

 

ギルドへと向かいながら聞いてくるスゥへとアルファがそう答えた。

 

「命の恩人の頼みなら何でも聞くヨ!」

「ああ、上手くいけば今夜はご馳走が食べれるぞ!」

 

彼女の言葉に彼がやる気を出してもらうために言葉巧みに話す。

 

「ご馳走あるカ!頑張るヨ!」

 

するとスゥは俄然やる気が出た様子で瞳を輝かせ力拳を作って見せた。

ギルドへと入っていくと受付へと向かう。

 

「いらっしゃいませ。ギルドへようこそ。本日はどのような御用でしょうか?」

「仕事を紹介して欲しい」

 

受付嬢が営業スマイルで応対するとアルファが仕事を探していることを伝える。

 

「畏まりました。それではプレートの確認を」

「ああ、これだ」

 

受付嬢の言葉にコートの両襟に渡すようにつけているネックレス状の飾りにしか見えないプレートを指した。

 

「シルバーですね。少々お待ちください」

 

受付嬢はプレートを確認すると部屋の奥へと入っていく。

そのプレートは個人のギルドランクが一目で分かるように作られていて、その色に対して受けられる仕事内容が変わるような仕組みとなっている。

 

「アルファ。そのプレートって何あるカ?重要あるカ?」

「この国ではプレートを持っていないとギルドでの仕事が受けられない仕組みになっている。で、プレートの色で依頼(クエスト)の種類が変わるんだ。俺はシルバープレートだからB級クラスまでの仕事なら受けられるんだ」

 

興味深げにスゥが聞いてきたので彼は説明した。

 

「へぇそういうことなのネ」

 

しばらくすると受付嬢が数枚の紙を持ってきた。

 

「あなた様が受けられる仕事はこちらになります」

 

仕事の一覧が表示されている紙を渡されると、アルファはその内容に目を通す。

退治依頼や採取依頼、護衛依頼など様々な内容が書かれている。

 

「あんまり町から離れないクエストのが良いから、この周辺に出没する魔物退治にしておくか」

 

アルファが言うとクエストを選ぶ。

 

「それではこちらに記載されている魔物の退治をお願い致します」

 

受付嬢がそう話すと仕事内容の登録が完了した。

 

「よし。スゥ早速向かうぞ」

「分かったあるヨ。どんな仕事でも任せるネ」

 

ギルドから出ると彼がそう声をかける。スゥが頷くと二人で町周辺に出没する魔物の討伐へと向かった。

 

その頃、ルアはサウスの新しい服を作るための布を買いに市場へと訪れていた。

 

(なるべく今の服装を崩さずにした方が良いのかな?同じようなパーカーとズボンを買って…フードは猫耳のようにして、それから腰からくるぶしまでの長い腰巻型のスカート…そうねフィッシュ・テールスカートみたいな感じにして見たらいいんじゃないかしら?…それとリボンもつけちゃおう!絶対可愛いわ!)

 

あれやこれやとアイデアを考えながら服飾屋へと向かう。

 

「サウスはオレンジ色の服を着ていたから。それと同じ色を選んだ方が良いわよね」

 

色とりどりの服や布が並ぶ棚を見ながら考えをまとめると材料を必要な分だけ購入し宿屋へと帰っていく。

 

「さて、アルファも頑張っているだろうし私も頑張ろっと!」

 

机の上に広げた服と布を見やり意気込むと裁断を始めた。

【番外編】それぞれのバレンタイン

※原作よりも前の世界軸です。水竜寺先生よりいただきました。ありがとうございます!

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今日は年に一度のバレンタイン。どこかの国では想いを寄せる男性へと女性がチョコを贈り想いを伝える日らしい。

この国でも似たような文化があり、想いを寄せる人へ花を贈り想いを伝える日となっているのだ。

だが、元々の発祥は母親に日頃の感謝を伝えるため花を贈ったことが始まりとされている…


首都イリンシュレイ

ギルド【ハイマート】の一室。


「うん、よし!!」


ルアは姿見に映る自分の格好を確認すると、意気込み街へと繰り出す。

向かった先は想いを寄せる男性をよく見かける商店街。彼の姿を探すがどこにも見当たらない。


「今日は来てるはずなんだけどなぁ…?」


がくりと肩を落としどうしようかなと考えていると誰かに声を掛けられる。


「おや…ルアさん」

「ザックス!」

 

探していた人が目の前に現れ、緊張のあまり垂直に背を伸ばした。

ザックス、彼はルアが働くギルド【ハイマート】に数週間に一度来る客だ。彼女が好意を寄せている男性でもある。


「丁度良いところに」

「な、何~?」


丁度良いところにという言葉に期待をして頬を赤らめソワソワする彼女にザックスがにこりと微笑む。


「実は貴女に頼みたいことがありまして…花束を贈りたい方がいるのですが、何分このようなことは初めてなので自信がないのです」

「え、花束を贈りたい人…」

「えぇ、それで貴女に女性ならではの視点で選んで頂けないかと思いまして…」


彼の言葉にショックを受ける。自分ではなくて他に花を贈りたい相手がいるのだと解釈したルアは心で涙を流す。


(でも、ザックスの役に立てるなら!)


そう思いザックスへと視線を戻すと口を開く。


「分かったわ!私に任せて」

「ありがとうございます。では早速行きましょう」


胸をトンと叩き任せろと言う彼女に、彼が柔らかく微笑み礼を述べる。

 

 

そして二人は近くの花屋へと向かうとルアの女子力の元、花を選び花束が出来上がった。

彼女に選んでもらった花束を購入したザックスがルアに近づくとそっと彼女の髪に触れる。


「え…?」


驚いて髪に触れると、髪には一輪の花が挿さっていた。彼女と同じ髪色、淡い桃色の薔薇の花…


「今日はお付き合い下さりありがとうございました。コレは囁かな贈り物です」


ザックスが爽やかに微笑む。その言葉に一気に顔中に熱が集まったルアは恥ずかしさと嬉しさでその場を飛び出してしまった。


「!?ルアさん…」


急に飛び出して行ってしまったルアに驚いたザックスだが、優しく微笑み彼女の背中を見守るのだった。

 


「っ~~!きゃ~ぁッ恥ずかしい!でも嬉しい!」


その後店を飛び出し闇雲に大通りを駆け抜けていたルアは黄色い悲鳴をあげて思いっ切り拳を突き出す。


「おわぁっ!?」


すると誰かの驚いた声が聞こえてきた。


「アルファ!?」


そこに立って居たのは幼なじみのアルファでギョッとする。


「あぶねえだろ!いきなり殴りかかってくる奴があるか」


彼が睨み付けて言い放つ言葉なんか聞こえていないかのように直ぐに口を開く。


「…さっきの見てた?」

「は?何を…?今ここを通り掛かったの所でお前の拳が突き出てきたんだからな」


奇声を上げて拳を突き出した一連の言動を見られていないことにホッと胸を撫で下ろす。


「それよりちょうどよかった、ほら…」


そう言ってアルファが差し出してきたのは花束だった。


「え…?」


一瞬驚いたが、ふと幼少期の出来事を思い出し「あぁ」と納得する。


「私、もう子供じゃないわよ」

「別にいいだろ。毎年の事で習慣になってんだからな」


…あれは家族と離れ離れとなり孤児院にやってきたばかりの頃。孤独を感じて泣いていた自分に声を掛けてくれたのがアルファで、いつの間にか仲良くなっていた。孤児院で迎えた初めてのバレンタインの日、彼が街の外から花を摘んできて自分に差し出したのだった。

友情の証とか言って…


普段はぶっきらぼうだが、ちゃんと人の事をよく見ていては不意に優しくしてくれる。そんな幼なじみに何時しか孤独を感じて悲しくて泣いていた日々はなくなっていた。そして今ではこうして明るく振る舞えるまでになったのだ。


「ありがとね」

「さて、帰るか」


花束を受け取り小さく笑う彼女から視線を外した彼がそう言って帰路に着く。

その後を追いかけるようにルアも着いて行った。


***


その日の日が沈んだ頃の事。首都下町の人気の無い路地を進むザックス。そして一軒の小さな宿屋へと入っていった。


「あ、お兄ちゃんおかえりなさい」


と猫の獣耳が生えた10歳ぐらいの女の子が出迎えてくれた。


「サウス、貴女にコレを差し上げます」


ザックスはルアと選んだ花束を宿で待っていた彼女に渡す。


「わぁ~キレイな花がいっぱい。ありがとう!」


彼女は嬉しそうにはにかみそれを受け取った。

サウスがバレンタインの日に贈られる花束の意味を知るのはもう少し先の事である。

第4話③「良からぬ噂」Axis of Fate~大樹物語~

…そして、それぞれ自己紹介も終わり馬車に揺られること数時間。

 

「……」

「な、何?」

 

ずっとサウスの顔を見詰めるルーンに彼女は正体がばれることを恐れながら尋ねる。

 

「… …」

「っ…!」

 

少女が顔をよく見たいと思ったのかフードを外そうと手を伸ばす。

サウスは必死でフードを目深までかぶり両手で抑え取れないようにする。

 

「?… …」

「あ、ご、ごめん…でも、これだけは外せないんだ」

 

途端に泣き出しそうな顔になったルーンの様子に彼女は慌てて謝った。

 

「ねぇ、その子…?」

 

ヨーンもずっと気になっていたようで尋ねてくる。

 

「あぁ…こいつな極度の恥ずかしがり屋なんだ。だからこうしてフードでいつも顔を隠してるんだ」

 

それにアルファがはぐらかすように説明する。

 

「そうなのね」

 

彼女がそう呟くとそれ以上追究してこない事に胸を撫でおろす。

 

(やっぱり耳やしっぽを隠すためとはいえ、子供だけこの格好は目立つな。何か考えないと…)

 

アルファは内心で呟くと町へ着くまでの間何かいいアイデアはないかと考えを巡らせた。

 

ぐうううう

 

その時鳴り響く巨大なお腹の音が。全員がスゥへと視線を向ける。

 

「お腹すいたあるヨ」

「さっきご飯を分けて頂いたのにもうお腹すいたの?」

「スゥの食欲は異常だな…」

 

先ほど朝ご飯を食べたばかりだというのにお腹がすいたと騒ぐ彼女の様子にルアとアルファが呆れる。

 

「…これ…」

ルーンが馬車の奥の積み荷から小さなバスケットから何かを一つ取り出すとそっとスゥに差し出す。

 

「おお。くれるあるカ?」

 

彼女はそれを手に取ると貰ったものを不思議そうに見詰めた。

 

「…これは何カ?」

「…お菓子…です…」

 

見たこともない桃色で丸い物体にスゥが尋ねると小さな声でルーンが言った。

 

「それはね。西国の菓子でマカロンっていっていうのよ。色を付けた焼き菓子にクリームを挟んだものなの」

 

ヨーンがそのお菓子の説明する。

 

「このまるくて甘い香り……美味そうネ」

 

その言葉を聞き流しながらスゥが匂いを嗅いで微笑む。

 

「とっても、甘くて…お、おいしいです…色もいろいろあって…楽しいですよ」

 

ルーンが笑顔で言うとバスケットいっぱいに入っている水色や黄緑色、紫といった色とりどりのマカロンを見せてきた。

 

「食べると元気…回復するし…力が出ますよ」

「そうあるカ。それじゃあ早速いただくヨ!」

 

少女の言葉に彼女は理解すると大きな口を開けてマカロンを頬張る。

 

「ん~!美味しいアル」

「そんな色の食べ物見た事ないけど……それ美味しいの?」

 

美味しいと言って笑顔になるスゥの様子にサウスが尋ねた。

 

「食べますか?」

「え。いやボクはいいよ。お腹すいてないし」

「一つ食べるだけで…元気になりますよ?皆さんも良かったらどうぞ……」

 

ルーンの言葉に彼女は慌てて断るも、ウルウルした眼差しで人数分差し出してくる彼女の好意を断るのも良心が痛み、アルファ達も一つずつ貰って食べてみる事にする。

 

「「「い、いただきます」」」

 

三人はひきつった顔で得体の知れない物体を口の中へと放り込む。すると見た目に反して口内いっぱいに広がる甘くとろける味に見る見るうちに顔がほころぶ。

 

「あ…美味しい」

「ああ。思っていた味と違うな」

「ほんと、甘くておいしいわ」

 

サウスが言うとアルファとルアも同意して頷く。

 

「これ、お気に入りなんです…美味しいから…」

「ルーンちゃんは甘いのが好きなんだね。私も甘いもの大好きなの」

「ボクもどちらかというと甘いものの方が好きかな」

「ワタシも甘いもの好きアル。みんなで甘いもの同盟組むあるヨ!」

 

「なんか盛り上がってるな……」

 

盛り上がり甘いもの同盟を組むと騒いでいる女の子達を遠巻きに眺めながらアルファは呟く。

すっかりヨーンとルーンと意気投合した彼等は楽しく会話を交わしながら旅を続ける。

第4話②「良からぬ噂」Axis of Fate~大樹物語~

森を抜け、街道をしばらく歩いていると前方に何か見えてきた。黒い塊が何やらうごめいている。

近付くとはっきりと見えた視界の先には十頭の狼に囲まれ襲われている馬車の姿があり、その持ち主と思われる人が抵抗している姿も見えた。

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「大変!馬車が襲われてるわ!」

「助けるヨ!」

 

それを見たルアが言うと戦闘態勢をとったスゥが駆け出す。

 

「サウス、お前はその辺で隠れてろ!」

「う、うん」

 

アルファが武器を構えながら言うとサウスは頷き近くの木の陰へと隠れる。

 

「はぁっ!」

「ワタシも行くあるヨ。はっ!」

「食らいなさい!」

 

馬車の周りを囲う狼達の意識を自分達の方へとむけさせるべく彼等は地面へと一撃を与えた。

 

「!」

 

グルルルル…ワヲーン

 

群れのボスと思われる一周り大きい狼が吠えると標的をアルファ達へと変える。

 

「うまくいったわね」

「よし、一気に片付けるぞ」

「任せるあるヨ」

 

ルアが言った言葉に彼がそう言うとスゥが前へと出て次々と狼達をなぎ倒していく。

瞬く間に狼達を追い払うと馬車の方へと顔を向けた。サウスもアルファ達の側へと戻る。

 

「怪我はありませんか?」

「大丈夫よ。助けてくれて有難う」

 

ルアが尋ねると長い緑髪の女性が微笑み答えた。

大きめのターバンを頭に巻き、黄緑色のローブを着ている。

 

「… …」

 

そして女性の背後に隠れるよう、赤髪の女の子が小さく頭を下げてお礼する。彼女も女性と同じようなターバンを巻き、ピンク色のローブを着ている。

 

「!」

 

しかしアルファ達が視線を送ると慌てて身を隠すように顔を引っ込めてしまった。

 

「私はヨーン。旅の行商人よ。この子は私の妹のルーン。内気でおとなしい子で、ちょっと人見知りが激しくて…それよりも、助けてもらったお礼は何がいいかしらね」

 

グゥ~

 

ヨーンと名乗った女性が言うとともに誰かのお腹の虫が小さくなる。

 

「ボクの……」

 

頬を赤らめ恥ずかしそうに手をあげて呟くサウス。

 

「あら食事がまだなのね。少ないけれど分けましょうか?」

 

ヨーンが小さく笑うとそう提案した。

 

「あぁ助かる」

 

アルファは有り難いと言った感じで頷く。

 

「ア~美味しいネ。空腹のお腹にしみるアル」

「スゥ食べ過ぎだよ!…ごめんなさい」

 

一心不乱にバスケットに入っているパンを次々と平らげていくスゥの様子にサウスが言うと女性へと謝る。

 

「ふふっいいのよ。よっぽどお腹がすいていたのね」

 

それにヨーンが微笑み大丈夫だと言った感じで答えた。

 

「本当に助かりました。有難う御座います」

「あら、お礼なんていいのよ。助けてもらったお礼なのだから。それよりも貴方達はこれからどこへ行くのかしら?」

 

ルアが感謝してお礼を言うと女性が小さく首を振って答えてから尋ねる。

 

「これからタスカーに行くつもりだ。そこで食料を調達したり、色々とやりたい事があるからな」

 

「あら、それなら私達もちょうどタスカーへ向かうところなの。良かったら乗せていきましょうか?」

 

アルファがそれに答えるとヨーンがそう提案してきた。

 

「それは助かるな」

「いいのよ。その代わり町へ向かうまでの間、護衛を頼んでいいかしら?さっきみたいに獣の群れや野盗なんかに襲われたら困るもの」

 

彼女の提案にありがたいといった感じでお礼を述べる彼へとヨーンがそう言って小さく笑う。

 

「もちろんよ。私達に任せてください」

 

ルアが乗せてくれるお礼ですからといった感じで胸を張って答える。

こうしてアルファ達はヨーンの馬車に乗り町へ向かう間、護衛をするということとなった。

第4話①「良からぬ噂」Axis of Fate~大樹物語~

翌朝スゥが昨夜狩った大猪を一人で殆ど食べてしまった為朝食抜きで町まで向かい旅を再開する。

 

グルルルゥ~

 

「お腹すいたヨ。ご飯食べたいアル」

 

巨大な魔物が唸るがごとく大きなお腹の音を響かせてスゥが情けない声で呟く。

 

「もうちょっとで町につくから我慢しろよな」

 

それに誰のせいだと言いたげに苛立った声でアルファが言うが、

 

グゥ~

 

彼女のお腹の音につられて小さく彼のお腹も鳴る。

 

「今のはアルファ?」

「はははっ。アルファだってお腹すいてるじゃないの」

 

サウスが不思議そうに尋ねるとルアがおかしそうに笑う。

 

「う、うるせぇ~…」

 

その言葉に恥ずかしさで頬を赤く染めながらアルファが言うと歩く速度を速める。

 

「待ってヨ。そんなに早く歩けないネ…」

 

一人だけさっさと歩いていってしまう彼へとスゥが元気のない声で訴える。

 

「もう、何怒ってんだか…」

 

ルアも困った幼馴染だと言いたげに呟いた。

 

「うるせえ。置いてくぞ!」

 

彼女達へと声だけかけるとアルファは更に一人で先を行く。

 

「ま、待って…わっ!」

 

彼の後を必死に追いかけようとしてサウスは躓いて転ぶ。

 

「大丈夫あるカ?」

 

近くにいたスゥが慌てて駆け寄ると手を貸して立ち上がらせた。

 

「何やってんだ…?」

 

先を歩いていたアルファもさすがに立ち止まり振り返ると呆れた様子で言う。

 

「アルファが一人で先に行っちゃうからでしょ!レディーが三人もいるんだからちょっとは考えてよね!」

 

その言葉にルアが苛立たし気な口調で怒鳴る。

 

「…レディー?」

「なによぅその目は!」

 

半眼で見てくる彼へと彼女が怒って強い口調で言う。

 

「…別に」

 

それに適当に返すも今度は三人の後ろを歩き、彼女達の歩調に合わせてゆっくり歩いていったのだった。

第3話⑧「異国の少女」Axis of Fate~大樹物語~

それから少ししてからアルファを見張り番に残し女性陣は眠りにつく。

そして辺りも静まり返った真夜中のこと…

 

「…ねえ、アルファ」

 

蒔きの番をしている彼へとサウスがそっと声をかけてきた。

 

「なんだ寝てないのか」

「これ、お兄ちゃんの手帳なんだけど…」

 

とサウスが差し出してきたのは手帳だった。表紙は革で覆われ、ノート部分の端からおびただしい量の付箋が付いている。かなり年季の入った手帳だ。

 

「ボクじゃ難しくて、内容がなんて書かれているのか分からないんだ」

「どれ……」

 

受け取った手帳を開いてみる。一ページ一ページとめくっていくと、そこには彼が今まで調べたとされるメモや調べた内容がぎっしりと書かれていた。が、この手帳が他の手に渡ってもいいようにするためか文字の羅列はバラバラでどれも意味をなしていない。暗号化されているのかアルファにも分からなかった。

 

Fate・アーディッシュ・黒い霧・魔物の凶暴化の関係性】

 

手帳をめくりながら何とか読めた一部の単語を心で呟く。

 

(…Fateの事を調べていたのか?)

 

そして最後の方のページを開くと兄からのメッセージが書かれていた。

 

この手帳を見ている者へ。この子を見て驚いた事だろう。だが、この子はあの事件を起こしたモノたちとは別の者だ。干渉を人為的に起こし、あのモノ等をこの世界に放った者は別にいる。私はそう思っている…もし願うならばこの子を護って欲しい。私もすぐに追いかけるつもりだ…それまででいい

 

(サウスがこの手帳を持って行くことは、考えのうちに入っていたって事か)

 

書かれている文面を読み終えたアルファはそう内心で呟く。

 

(しかしこの人にサウスは大事に育てられてたんだな…)

 

サウスを護って欲しいと願う兄という存在が、彼女を大切に育ててきた愛情を知ってアルファはサウスの顔を見る。見つめられた彼女は不思議そうな顔をしていた。

 

「暗号化されていてさっぱりだな」

 

誤魔化すかのように手帳を閉じると、そう言って彼女に返す。

 

「そう…なんだ…」

 

アルファなら分かると思っていたサウスはがっかりした様子で肩を落とした。

 

「アルファありがとう。お休みなさい」

「ああ…お休み」

 

彼女がそう言うと横になり眠りに就きに行くその背へ向けて小さく返事をすると

 

(それにしても…Fateは人為的に起こされ、奴らを放ったことになる。あの内容が本当だとしたら一体誰が…何の目的が…?)

 

先ほど手帳に書かれていたことを考えてみたものの答えが出ず、とりあえずこれ以上考えるのをやめた。

サウスから見せられた兄の手帳に書かれていた内容の謎だけを残し、アルファ達の旅はまだまだ続くのだった…

 

to be continued…

第3話⑦「異国の少女」Axis of Fate~大樹物語~

それから本当についてくるスゥを仲間に加え町へと向けて旅を再開する。

 

「とりあえず食料が無くなっちゃったから、早く町に行かないとね」

 

「だが、今日の明日のじゃ無理だな。とりあえず今日は早めに野営をするぞ。森の中だし食料になりそうなものを集めればなんとかなるだろう」

 

ルアの言葉にアルファが言うと森の中で食料になりそうな獣や木の実などの食べられるものを探す。

 

「この足跡は…少し大きいけど猪の足跡だな」

「まだ近くにいるかもしれないね」

 

獣道にできた真新しい足跡を見たアルファが言うとサウスも呟き猪の足跡を追いかけて森の奥へと進んでいく。

 

「あ、あそこに」

ルアが茂みの奥に見つけた大猪の背中を指さすとアルファが剣を構える。

 

「よし、じゃあ…」

「ここは任せるあるヨ!」

 

だが、そんな彼の言葉を遮りスゥが大猪目がけて突撃した。

 

「はぁああっ!」

 

スゥの持っていた武器、二節棍(ヌンチャク)。つなぎ合わせると一本の棒のようになった。そして猪の頭へとそれを振りかざしたのだ。彼女の細身の身体では思えないほどの強烈な一撃。

猪は何が起こったか分からないうちに事切れる。

 

「「「!?」」」

 

一撃で大猪を倒してしまったスゥの様子に三人は驚きその場から動けなかった。

しばらく呆気に取られていた彼等だったが猪を引きずり始めた彼女の様子に近くに駆け寄り手伝う。

 

「この猪本当に大きいわね」

「ああ、これだけあれば数日は保つかもな」

 

大猪を担いで野営場所に戻りながらルアが言うとアルファも相槌を打つ。

 

「早速、今日の夜ご飯確保あるネ♪」

 

スゥの言葉に皆が先ほどの食欲を思い出し、嫌な予感を覚える。

 

(((今日のって…まさか!)))

 

その予感は的中してしまい数日はもつかもしれなかった猪の肉をスゥが一人でほとんど平らげてしまった。

 

「これは町に向かいながら、毎回食料を調達しないといけないかもしれないわね」

「とんでもない奴が仲間になったもんだぜ…」

「なにか不安あるカ?ワタシがついているからオ肉の調達は無問題ネ♪」

 

ルアとアルファの話が聞こえたのかスゥがそう言ってにこりと笑う。あんたの事で不安なんだと言い出せない三人は小さく溜息を零した。