小説「Axis of Fate」

案/絵/編集:たみぽん。文:水竜寺葵。オリジナルファンタジー小説。更新は約月1ぐらいです。

第3話⑥「異国の少女」Axis of Fate~大樹物語~

しばらくサウスの耳を触っていいた二人だが満足した様子で彼女から離れる。

 

「…ところでにぃはなぜサウス様と一緒に行動してるヨ?」

「一から説明するとめんどいが…目指す場所が同じだからだな」

 

スゥの言葉にアルファが答えた。

 

「?」

「ボクはね、くうかんのはざまってところに行きたいんだ。みんな、それぞれの目的は違うけど行きたい場所が同じだから一緒に旅をしているんだよ」

 

理解できなかったのか不思議そうにしている彼女にサウスも説明する。

 

「あ…なるホド。クーカンのハザマというところに向かってるのネ…うん、決めたヨ!一宿一飯の恩アル。一緒についてくヨ!」

「はぁ?待て、勝手に決めるな!」

「泊めてはいないんだけどね…」

 

彼女の言葉にアルファが驚きルアが苦笑を零す。

 

「ワタシ、お金全然持ってないアルが気にしなくても無問題(モウマンタイ)ヨ。恩は身体で返すからネ。サウス様守るし、魔物との戦闘は任せるヨ」

「全然話聞いてねえし…てか、ついてくる気満々だな…」

「あははっ」

 

一人で話しを決めるスゥの様子に彼が呟くと、サウスも苦笑した。

第3話⑤「異国の少女」Axis of Fate~大樹物語~

「「「?」」」

 

崇めるスゥの様子に三人は状況が呑み込めず不思議そうに顔を見合わせた。

 

「ねえそのマオシンって何なの?」

 

聞きなれない単語にルアが尋ねると、

 

「ワタシの国のシンでは狐ガ神、フゥ神様を崇めてル。だけどワタシの故郷は猫ガ神、マオ神様を崇めているんだヨ。ダカラ、マオ神様を崇めたヨ」

 

彼女は淡々と説明をした。

 

「それでお前を見て拝んだってわけだな」

「まさか…ボクがあがめられるとは思わなかったんだけど…」

「でも、この様子ならサウスの事を“裏”とは思っていないみたいだから大丈夫そうね」

 

拝むスゥを横目に三人はこそこそと話し合うと小さく頷き合う。

 

「それにしてもマオ神様がどうしてこんなところにいるあるカ?まさかワタシを助けるためにお姿を現してくださったのカ?」

「ボクはサウスだよ。だからサウスって呼んで。それにボクはマオ神じゃなく…むぐっ…」

 

ありがたがる彼女の様子にサウスが困った様子で言いかけたがアルファに口をふさがれ驚きそちらへと視線を送る。

 

「ここは話を合わせておけ。マオ神とかって奴だと思っていたほうのが都合がいいからな」

「ぅ、うん…ふぁかった」

 

小声で耳打ちしてきた彼の言葉に彼女が大きく何度も頷くと塞がれていた手が外され息を吸い込む。

 

「マオ神様のお名前がサウス様あるカ?それならサウス様と呼ばせて頂くヨ」

「う、うん…で、こっちのお兄さんがアルファでお姉ちゃんがルアだよ」

 

スゥがそう言うとサウスはアルファ達を見て紹介する。

 

「よろしく」

 

それにルアがにこりと笑った。

 

「それにしてもサウス様のお耳は本当にフサフサしていて気持ちよさそうあるネ」

「え…?」

「あ、それ。私も同じこと思っていたのよね。とっても触り心地よさそうだな~って」

 

スゥの言葉にサウスが驚くとルアも同意して彼女の耳を見つめる。

 

「そのお耳、ゼヒとも触らせて頂きたいヨ♪」

「ねえ、その耳触っていい?いいよね?ふふふ…」

「!?」

 

手をワキワキさせながら迫って来る二人の様子にサウスはひきつった顔で慌てて逃げ出す。

f:id:tamipom:20210522202149j:plain

「う、うわぁっ」

 

逃げ出すもすぐに二人に回り込まれ捕まるとそのまま耳をモフモフと触られサウスは悲鳴をあげる。

 

「…や、やめて…」

「きゃ~もふもふ~♪」

 

そんな彼女の悲鳴など気にした様子もなくルアがハートを飛ばしながら右耳を触り続けた。

 

「オぉ~さすがマオ神様のお耳。触り心地さいこーネ」

 

左耳を触っているスゥも言うとその触り心地の良さにずっとモフモフし続ける。

 

「なにやってんだか…」

 

一人だけ遠くでそれを傍観するアルファが呆れた様子で呟いていた。

第3話④「異国の少女」Axis of Fate~大樹物語~

しばらく歩いていると、前方の道に何か赤い物体が横たわっているのが見えてくる。近付くにつれてそれが人であることに気付いた。

 

「あ!アレ…誰か倒れてるよ」

 

サウスが見つけて駆け寄っていった。

 

「大変!怪我してるのかも!?」

 

ルアも慌てて駆け寄っていく。

 

「ちょっと待てよ!魔物にやられたのかもしれない。周囲に気をつけろよな」

 

一人だけ冷静なアルファが周囲を気にかけながら近寄っていった。

うつぶせに倒れている者をルアが抱きかかえ声をかけた。

 

「大丈夫?」

 

倒れていたその者の顔は、まだ幼さの残る十代後半ほどに見える少女だった。赤い服や黒髪をサイドで結んでいる大きな装飾はこの国のものとは違い、例えて言うなら中国系のチャイナ風の衣服を身に纏っていた。おそらくだがこの地、イリンシュレイ国の者ではないだろう。

だが、身体に外傷はなく、魔物に襲われたわけではないようだ。

 

「う…うぅ…」

「お姉さん、どうしたの?怪我してるの?」

 

少女が小さくうなる様子にサウスが尋ねる。

 

ぐぅうう~…

 

するとその瞬間、静かな空間に鳴り響くお腹の音。

 

「「「… …」」」

 

三人は無言で少女の姿を見詰めた。

 

「うぅ…お腹…すいたぁるヨ」

 

か細い声で呟いた少女の言葉は、少し訛り口調でイリンシュレイで使われている言葉を発した。どうやら彼女はお腹が空き倒れていたようだった。

 

「生き倒れかよ…」

 

彼女の言葉にアルファが呆れる。

 

「あはは…じゃあ有る食料で何か作るわね」

 

ルアも苦笑すると荷を下ろし調理道具と食材を取り出し料理し始めた。

 

「できたわよ…!?」

 

簡単に作ったサンドイッチを持って少女の方へと向かおうとした途端。手に合った重みが消える。

 

はぐはぐもぐもぐ…むぐむぐ、はぐもくむむ…

 

先ほどまで倒れていたはずの少女が勢いよく料理を食べ始めたかと思うと、

 

「おいしいあるヨ!お代わりネ!」

 

お代わりを要求してくる。

 

「お姉さんそーとーお腹がすいてたんだね…」

「ちょっと待ってて!もう一回作って来るから」

 

呆気にとられるサウスの横でルアが慌てて料理を作り足す。

 

はぐむぐむぐ、もぐもぐはぐむぐむぐ…

 

作っても作っても少女の手が止まることはなく気が付くと食料が入っていたカバンの中身はいつの間にか空になっていた。

 

「ふぅ~。まんぷくまんぷく。モぅ食べられないヨ」

「全部…食べちゃった…」

「凄い食欲だな…」

 

お腹をさすり満足する少女の様子にサウスが驚き呟く横でアルファも呆れ果てた様子で言う。

 

「いぁ~助かったヨ。食料が底をつきてもうダメかと思っていたケド、にぃ(あなた)達のおかげで助かったネ。ワタシはシン国から来たスゥっていう名あル。本当に助かったヨ。アリガトネ!」

 

一人で捲し立て三人へと感謝の気持ちを述べるスゥ。彼女の衣服や口調からこの国の者ではないことは察していたが、このイリンシュレイより東の大陸にあるシン国から来たようだ。

そして彼女は途端に無言になり、マントを羽織りフードを目深に被っているサウスへと視線を向けじっと見つめる。

 

「……」

「っ!?」

 

その様子に彼女は正体がばれるのを恐れ硬直した。

 

「な…何?」

「そんなの被ってたら、かわいい顔が見えないヨ!」

 

ひきつった顔で尋ねるサウスの様子など気にした感じもなくスゥが言うと彼女がフードを捲り、隠していた部分を晒しその姿を見る。

 

「あ…!!」

「!?…ま…」

 

姿を見られてしまったと焦るサウスだが…

 

マオ神様だったあるカ!なんという失礼ヲ…」

 

彼女は蔑むどころかいきなり地面にひれ伏し、手を合わせて祈る様に拝んだのだった。

 

第3話③「異国の少女」Axis of Fate~大樹物語~

「終わったな…」

 

魔物から意識をそらすとアルファは言う。

 

「ちょっと時間かかっちゃったわね。サウス、もう出てきても大丈夫よ」

 

その言葉にルアも話すと背後にいるサウスへと声をかけた。

 

「……」

 

木の陰からひょこっと出てきた彼女は深刻な顔で何事か考えこんでいる様子。

 

(ボクは戦えないし魔法だって使えない…それって二人の足手まといにしかなってないんじゃないのかな?)

 

歩き始めた二人の後に続きながらサウスは内心で声を出し自分が何もできないことに悩む。

 

「…ねえ、どうしたら魔法って使えるの?ボクもアルファやルアと一緒に戦いたいよ」

「え…えっとね。魔法っていっても、まず適性があるかどうかよね?」

 

前を歩く二人へと唐突に声をかけてきたサウスの様子に驚いたものの、ルアはちゃんと答えるとアルファへと視線を向けた。

 

「適正はあるんじゃないか?」

「?」

 

彼の言葉に理解できなくてサウスが不思議そうに目をぱちくりさせる。

 

「それってどういうこと?」

 

ルアも意味が分からなかったようで尋ねた。

 

「あの大蜘蛛の時、一瞬だが動きが止まったんだよな」

「それって無意識に使ってたってこと?」

 

アルファの言葉にルアがなんとなく理解した様子で尋ねる。

 

「だろうな、後は…魔力コントロールとイメージ力だな」

「コントロールとイメージ力?」

 

彼の説明にサウスが不思議そうに首を傾げた。

 

「やり方は簡単さ。まずは集中力をつけること。次に技を放つイメージをする。例えば炎が集まるイメージをしながら…我が前に集えって唱える。言霊に力を乗せるんだ。そうすれば…ほら、手の平に炎が集まってこうなる」

 

アルファは説明しながら魔法を使って手の平に野球ボールくらい炎の塊を出現させる。

 

「この塊が手の平に集まらず飛び出してしまったり、集まっても玉にならず暴れるようだとコントロールができていない証拠だ」

「どうすればコントロールできるようになるの?」

 

彼の言葉にサウスがさらに質問した。

 

「力加減を覚える事かな。火や水、光でもいいから集中力を高めて手の平に納まるまでコントロールの練習をするんだ。そうしていけば自然にコントロールできるようになる」

 

「さすがアルファ!教え方が上手ね」

 

説明を聞いて納得するサウスの様子にルアがそう言って笑う。

 

「これから俺とルアが魔法のやり方を教えていってやるから大丈夫だ。そうだな…まずは基礎知識からだな。次の町で魔術書の本を買ってやるからそれを見て覚えろ」

「うん。アルファありがとう」

 

にこりと笑い言われた言葉にサウスは嬉しそうにお礼を述べる。

 

「私、サウスには治癒術が使えるような気がするのよね。それが使えるようになってくれたら私も少しは楽になるし。治癒術の事ならいろいろと教えてあげられるわよ」

 

ルアもにこりと笑い言う。

 

「ルアもありがとう。ボク、がんばって覚えるね!」

 

サウスは彼女にも感謝の気持ちを伝えると意気込む。

 

「それじゃあ歩きながらある程度の事を説明してやるな」

「うん♪」

 

いつの間にか止まっていた足を動かし歩き出しながらアルファが言うとその後を追いかけながらサウスも頷く。

 

「ふふっ。何だか私達先生みたい」

 

ルアがおかしそうに笑いながら二人の後に続いて歩き出した。

第3話②「異国の少女」Axis of Fate~大樹物語~

「まだ動けるのか!?」

 

それをかわした彼は元気そうな相手の様子に呟く。

ルアはアルファが魔物の相手をしているうちに、腰のポシェットからルーペのような道具を取り出し、目の前へとかざした。

これは【ネンリシンボル】というもので、対象の能力値が分かるという優れもの。

魔物のステータスを確認すると…

 

「…って、ええっ!」

 

ルアは突拍子に変な声をあげた。

 

「こいつ体力だけはバカにならない数値じゃないの!?どんどん攻撃しないとこっちが不利になるわよ!」

 

体力の数値が通常の魔物の数倍もあったのだ。

 

「まじかよ…とにかく俺が引き付けるからどんどん攻撃してくれ。一番威力高いやつな」

 

彼女の言葉に彼はめんどくさいといいたげに言うと指示を出す。

 

「了解よ」

 

彼女もそれに頷くと意識を集中して魔法を放つ準備をする。

 

「ぐああっ」

 

背後で詠唱中のルアの方へと向かう魔物。

 

「おっと。そっちにいかせるか!」

 

その様子に一瞬で敵との間合いを詰めると、剣を振りかぶり相手を斬りつけ意識を自分の方へとむけさせる。

 

「精霊の吐息、我等に力を…」

 

詠唱を終えた彼女がステータス上昇の術を発動させる。

 

「よっし!はぁっ!」

 

そして、力が上がったアルファは大きく前進し、相手の懐へと剣を突き刺した。

 

「ぐがぁっ」

 

今までの攻撃とは違い、魔物が身もだえる。

 

「っ!あいつの弱点は胸みたいね!」

 

その様子にルアが言う。

 

「あぁ、そうらしいな。そこを狙うぞ!」

 

とアルファも気づいていた様子で頷き弱点一本に絞り込む作戦へと変更する。

 

「はぁ!」

 

アルファが剣で薙ぎ払うと真空波が発生し、相手の正面に当たる。

 

「七つの光明…審判にて彼の者に裁きを!」

 

そして、間髪入れずにルアが光の魔法を放った。彼女の前に現れた一つの大きな光の塊は、七つの球体に分かれたと思うと光速の速さで次々に魔物に貫いていく。

 

「ぐぎぁあああっ…」

 

奇怪な悲鳴をあげて地面へと倒れ、次第に黒い塵となって崩壊していった…

第3話①「異国の少女」Axis of Fate~大樹物語~

サウスと出会ったアルファとルアは彼女を連れて遺跡を出る。

そしてそこから一番近い町へと目指し旅を続けた。

木々が生い茂る山道を下っていると

 

「ルア」

 

何かに気付き剣を構えるアルファ。

 

「わかってる。サウス、私達の後ろに」

 

その様子にルアも理解していて頷くとサウスを自分達の後ろへと下がらせる。

 

「え?う、うん…」

 

一人だけ理解できていない様子で彼女が不思議そうにしながらも二人の後ろへと退いた。

するとーーー

 

「ぐるぁあああっ!」

 

と、大きな雄たけびとともに、薄紫の毛むくじゃらの熊のような動物が草むらの茂みから出てきたのだ。

 

「こいつはでかいな」

 

ゆうに3メートルを超えたその巨体は赤黒い瞳を光らせ、鋭い牙で威嚇している。

 

「この辺りに生息してるっていう噂の魔物かもね」

 

2人は警戒し身構える。

 

「サウス、攻撃が当るといけないから、あの木の陰にでも隠れてろ」

「う、うん。わかった」

 

アルファの指示に従い慌てて少し離れた場所にある木の後ろへと隠れた。

 

「ぐぅああっ!」

 

魔物の腕がアルファへと向けて振り下ろされる。

 

「おっと…俺がこいつを引き付ける。ルアはその間に」

 

それを剣の平で受け止めた彼が背後にいるルアに言う。

 

「わかってるわよ」

 

彼女は小さく頷くと

 

「命の源…清らかなる水よ…集え降り注ぎ、弾けろ!」

 

静かな口調で詠唱をする。

相手の頭上に大きい水の塊が現れると、一気に地面に向けて落下する。地面に接した水の塊は飛散しはじけ飛んだ。

 

「ぎぁあっ」

 

「こいつも食らえ!」

 

ルアの技を受けて動きが止まった魔物にアルファは後ろへ周り、容赦なく次の一手を繰り出す。

 

「爆ぜろ炎!はぁっ!」

 

炎の渦をまとった剣が相手へ向けて振り下ろされると、炎が波動となり敵に当たると炸裂する。

 

「ぐるあああっ」

 

彼等の攻撃を受けたにもかかわらず魔物は平気そうにアルファへと攻撃した。

 

「ぐっゔがぁ!」

 

「っと…まだ動けるのか!?」

 

第2話⑪「ラウルス遺跡」Axis of Fate~大樹物語~

石舞台を別々の所で調べていた二人だったが、

 

「何もないわね」

 

何も手がかりとなるようなものは見つからず、魔方陣もかすれていてどんなことに使われたのかも分からなかった。

 

「術式もかすれてて何をしたのか分からねえから、これ以上調べようがねえな」

 

そんなアルファの下にサウスが話しかけてくる。

 

「お兄さん…」

「なんだお前か…」

 

かけられた少女の言葉にぶっきらぼうな態度で呟く。

 

「… …」

 

サウスは一瞬戸惑ったが意を決して口を開く。

 

「まだお兄さんにはお礼言ってなかったから…さっきは助けてくれてありがとう」

 

少し照れくさそうに笑い少女がお礼を言った。

 

「…そうか」

「…」

 

照れ笑いするサウスの顔を複雑な心境で見ていたが、すぐに視線を外すと淡泊に呟く。

その時アルファのコートの裾を摘まみ少女が引っ張る。

 

「まだ何か用か?」

「あの…お兄さんの方が用があるんじゃないかと思って…ボクのこと見てたから」

 

うっとうしそうに何か用があるのかと尋ねる彼にサウスが躊躇いながら話す。

 

「!!」

 

その言葉に目を見開き一瞬考えるように黙り込む。

 

「…」

 

アルファは屈み込むとサウスと同じ目線に合わせる。

少女が被っているフードを顔が見えるように少し上げて、女の子をまじまじと見つめた。

 

「!?」

 

サウスはその行動に驚きながらも嫌がることなく彼の次の言葉を待つ。

 

「… …」

「やっぱり…」

「?」

 

小さな声で言われた言葉の意味が分からず少女は首を傾げる。

 

「何で同じ顔なんだ…?」

「…どういうこと?」

 

静かな口調で聞かれた言葉の意味が分からずサウスは聞き返す。

 

「…死んだ妹にそっくりなんだ、お前は…髪や瞳の色は違うけど、その丸い輪郭や髪型、大きな瞳は見間違えようがない…」

「!?」

 

静かな口調を崩さず語られたアルファの言葉に、今度は少女が驚いて瞳を見開いたが、しかしすぐに俯き暗い表情になった。

 

「少し大きくなればお前みたいな感じになってるだろうなという思いもあるかもしれんがな」

 

自嘲気味に笑うと俯く少女の顔を見詰める。

 

(だからだろう。こいつの顔を見た時、ためらってしまったのは)

 

あの時、死んだ妹に似ている少女を殺すことをためらってしまったのは紛れもない事実で、もしそうでなければ今頃この子を殺してしまっていたかもしれないとアルファは思った。

 

「そうなんだね…お姉ちゃんから聞いたよ…昔、裏におそわれて亡くなったって…」

「…あぁ」

 

俯いたままサウスが言う。

それにアルファは何とも言えない表情で頷く。

 

「ボクが裏で…お姉ちゃんが襲われるかもって思ったから、剣を向けたんだよね…」

「あの時はすまなかった。もっと冷静になるべきだった…」

 

消え入りそうな声で言われた言葉に彼はあの時剣を向けたことに後悔して謝る。

 

「仕方ないよ。ボクがこんなだから…」

「いや、お前と話して分かった。奴等とは違うような気がしてな…」

 

呟かれた言葉にアルファはそうじゃないと言いたげに否定した。

 

「ボクが…ちがう?」

「そうだ。奴等は話が通じない様だったからな。問答無用に襲ってきやがった」

 

ようやく顔をあげてくれた少女に、アルファは力強く頷くと話を続ける。

 

「… …」

「まるで飢えた動物のように…」

 

彼の瞳をじっと見つめるサウスへとアルファは続きを聞かせた。

 

「でもボクみたいなのが憎いっていう人はたくさんいるのは知ってる」

「なのに、お前は一人で向かおうとしてたのか?他に仲間は?」

 

不安そうな顔でまた俯いてしまった少女の言葉に彼は尋ねる。

聞かれたサウスは大きく首を横に振って呟いた。

 

「いないよ。ボク、同じ姿の人なんて見たことないから」

「そっか…ならお前一人でここまで頑張ってきたんだな」

 

今までぶっきらぼうだったアルファがようやく柔らかく笑うと、少女の頭を大きな手で優しく撫ぜる。昔妹にしたのと同じように……。

 

「…!?」

 

その行動に驚いたサウスが顔をあげるとお互い暫く見つめ合った。

 

「お前も空間の狭間に向かうんだろ?」

「…うん」

 

サウスは小さく頷いた。

 

「なら、お前のことは俺が守ってやるよ。目的地は同じなんだからな」

「お兄さん…」

 

笑顔で言われた言葉に少女は躊躇った様子で呟く。

 

「俺のことは…アルファで構わない」

「お兄…うん!よろしくね、アルファ」

 

アルファに認められたことが嬉しくて笑顔で礼の言葉を述べる。

 

「おう、よろしくな。サウス」

 

彼もサウスに認められたことが嬉しくてにこりと笑い少女の頭を優しくポンポンと叩く。

 

「やれやれ…世話がかかるんだから」

 

そのやり取りを遠目に見守っていたルアが、ようやく素直になれたかと嬉しそうに微笑んでいた。

石舞台がある広間を歩き、ラウルス遺跡の街から抜け出したアルファ達は、廃墟があった山の麓の空洞に出てくる。

すっかり夜が明けていて朝陽が差し込んできていた。

結局ラウルス遺跡では何の手がかりも見つからず、身体的に疲れた彼等は近くの村まで向かい旅を再開する。

 

to be continued…

 

追記:第2章完結ました!

が、年末年始あたりに話数(タイトル)等の修正を大きく行いたいと思います。ご了承ください。(例1章→1話 1話→①)次回から3章もとい3話になります。