第1話⑧「始まりの道④」Axis of Fate~大樹物語~
広場と王宮を見渡せる高い塔に全身黒の服を身に纏った青年一人が佇んでいた。
「エクザクスがついに動き出したようだね…」
青年は演説が終わり人々がそれぞれ歩んでいく光景を眺めている。
「ほらあの人だよ。彼がこの件に関わっているのは間違いないんだけど…」
祭壇から王宮へ戻ろうとしている人物、つまり国王を指して言う。
青年は一人しか居ないというのに誰かと話しているように聞こえた。
「うん…わかってる。今回、僕の役目は偵察なんだから、言いつけ通り手出しはしないよ」
そして彼は広場に向けていた目線を王宮の方へ向けて言う。
「騎士団に潜入してるっていうあの子にも会っていきたいと思ったけど…あれじゃ難しそうだね」
王宮の厳重な警備が敷かれている様子にため息交じりで呟く。
「…仕方ない、頼まれた捜し物をしつつ戻ろうかな。この事を魔王様にも報告しに行かなきゃならないしね」
そう言うと青年は瞬間移動でもしたようにその場から一瞬で姿を消した。
***
一方、演説が終わり国王エクザクスは祭壇から踵を返す。
そこから城までの通路には警備のため国王直属の護衛騎士【ガーディアン】が数人並んでいる。国王はその中から一人を呼び出す。
「シュン」
「へぃここに」
エクザクスの横に現れたのは茶色い髪を上の方で短いポニーテールに結い上げた青年。
騎士であるにもかかわらず彼は軍服のジャケットを羽織らず、ワイシャツを着崩し腰に短剣を下げているという軽装だった。
彼は国王の歩みに合せて後ろに付き城内をしばらく歩く。
そして人気のないエクザクスの自室前に来ると立ち止まり話した。
「君に頼みごとがある。アレの回収を頼みたい」
「アレの回収…すか…」
シュンは不満そうに呟く。
「不満があるか?」
「ぃんや。アンタの頼み事なら何でもやるさ。だけどもし奴等が居たり、邪魔するもん(者)がいた場合だよ…」
国王の言葉に彼が首を振り説明するように話した。
「あぁ…それなら君の好きなようにすればいい。情報が必要であればすぐにでも用意をさせよう」
「!!了解!では俺の好きなようにやってきますよ。イレイ…いや今はエクザクス…だったか?」
シュンが嬉しそうに深くお辞儀をするとこの場を後にする。
立ち去って行くその顔には狂喜とも読み取れる表情をしていた。
「ふふ…アレを手に入れればこんな世界なんてどうでもいい…今度こそ彼女を…」
エクザクスは自室へ入ると不敵な笑みを浮かべ呟いた。
こうしてそれぞれの物語が始まる。
ある者は己の為
ある者は真実の為
目指すは空間の狭間。
運命の歯車が今、動き始める…
to be continued...
2020.2.20/エクザクス最後のセリフを変更しました。