第2話④「ラウルス遺跡」Axis of Fate~大樹物語~
「はあぁっ!」
静かになった空間に剣と剣がぶつかる金属音が響く。
シュンの大剣を受け止めた衝撃で少し体が沈み込む。
「なかなかいい腕してんじゃねえか」
その様子にアルファは一気に警戒の色を強めたが、表面上ではにやりと笑い余裕で相手の剣を押し返す。
「はっ」
押し返した瞬間瞬時にシュンから距離をとった彼は、今度はこちらからいくぜと言わんばかりに居合切りを食らわす。
「おっと」
しかし相手は素早い動きでバック転を取り、その攻撃を避けた。
「はははっ。思った通り、あんたと闘うのは楽しいぜ!」
(こいつ、笑ってやがる…)
狂喜の笑みを浮かべ楽しそうに笑うシュンの様子に、アルファは眉を顰める。
(闘うのが楽しいと思う狂人か?そのうえ全然本気を出していない…ずいぶんと舐められたもんだぜ)
相手の剣を弾くとアルファは内心で思ったことを呟く。
「せいぜい俺様を退屈させないでくれよ?先輩!」
「…それは、本気で戦ってないやつに言われたくはない、なっ!」
大剣を振りかぶり攻撃してきたシュンの攻撃をはじき返して追撃を加えた。そしてアルファは戦いながら気になっていたことを聞く。
「何故護衛騎士がここにいる?陛下を守るのが仕事だろうが!」
「護衛騎士は俺様が一人抜けたところで問題はねぇよ」
それに彼は攻撃を続けながら答えた。
「まさかアレの排除に単なる志願者だけに任せると思った?素人に全部任せるほど陛下も馬鹿じゃねぇ…それに別の排除も命令されてるしな」
「?」
排除の意味が解らなくて疑問に思ったが、次にシュンの口から信じられないことが聞かされる。
「あの子猫ちゃん″アーディッシュ〟なんだよ」
「!!別の排除って…」
にやり顔で告げられた言葉に彼は目を見開き動きを止めた。
「そう…あいつ等のことだ」
動きを止めたアルファに合わせて攻撃するのをいったん辞めた彼が、分かってくれたか?と言いたげな顔で話す。
シュンが追いかけていた少女は〝アーディッシュ〟と確かに言った。
つまり裏のことである。
その言葉を聞いた途端アルファの脳裏に十三年前の出来事が横切った。
村民や家族を殺した人ならざる者が、今ルアといる。
(ルアが危ない!)
そう思った彼は急いで彼女を追いかけようとするが、それを阻むようにシュンが行く先を塞ぐ。
「おっと!行かせないぜ。これから面白くなるんだからな」
「邪魔だ!」
アルファは行く手を塞ぐシュンに対し、左手で掌底を放つ。
「!?」
シュンは大剣でそれを塞ごうとしたが、その掌底は風の力を秘めていて大きく浮き、壁へと向けて背中から激しく叩き付けられた。
「ぐっ…」
壁へとたたきつけられた彼は膝から崩れ落ち倒れる。
その隙にアルファはルアを追いかけて立ち去っていった。
暫くするとシュンは立ち上がり、何事もなかったかのように冷静に全身についた砂埃を払う。
「あ~ぁ、行っちまったか…まぁいいか。そっちは先輩に任せるか!あんなガキなんか殺っちまっても楽しかないしな」
肩を軽く回し大きく伸びをすると遠ざかった足音へと向けて大きな独り言を話す。
(…にしてもあのガキの瞳どこかで?…ま、今気にしても仕方ないか)
ふと脳裏に蘇った少女に出会った時の怯えた瞳を思い出し疑問に思い内心で呟く。
しかし、今気にするようなことでもないかと頭からそれを追い払う。
「くくく…でもこの後の方が楽しめそうだしな…」
そう言うと不敵な笑みを浮かべてその場を後にした。