小説「Axis of Fate」

案/絵/編集:たみぽん。文:水竜寺葵。オリジナルファンタジー小説。更新は約月1ぐらいです。

第2話③「ラウルス遺跡」Axis of Fate~大樹物語~

「!?」


最初に駆け寄ったルアが様子を伺う様に子どもを見る。

オレンジ色の上下、肩に付くほどの髪。だが人間には生えていないはずの猫のような獣の耳が頭に生えていることに気付き息を呑んだ。


(え…本物?)


彼女はそっと獣耳に触り、微かに体温があることを確認し、本物と確信した。

しかしそれをアルファに教えたらこの子が危ないと思い口をつぐむ。

彼女はとっさに子どもが被っているフードを深くかぶせ直し、再び様子を見る。

まだ幼さが残る十歳ほどの子どもの様に見えた。


「どうした?」

「ううん…なんでもない」


寄ってきたアルファの言葉にルアは平静を装い返事をするち、再び子供の様子を見る。

子どものマントやブーツはボロボロで擦り傷や切り傷が多かった。

相当な距離を移動してきたのだろうか?だが、身体には軽い擦り傷と泥汚れが付いているだけで、目で見た感じ大きな傷はなさそうだった。


「女の子みたい。…服に切り傷みたいなのはあるけど、身体には大きな傷はないみたい」
「そうか…」


怪我の様子を見ていたルアがそう言うとアルファも安堵した様子で呟く。


「一応治癒術をかけておくわね」
「ああ」


彼女がそう言って術をかけようと意識を集中させる。

 

「よぅ!」

 

その時軽い口調で誰かが声をかけてきた。

そちらを見やると噴水の奥の方から七分丈のシャツとズボンというラフな格好に、茶色のセミロングの髪を頭の上で縛っている細身の青年が現れる。

そしてその手には彼の身体には似つかない一風変わった三日月型の片刃大剣を担いでいた。

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「その子猫ちゃん俺様の獲物なんだがな」
「…ずいぶん物騒なもんを持ってんな。てめぇ誰だ?」


にやりと笑いルアが抱えている子供を見やり言った青年へと警戒しながらアルファが聞く。


「あぁ…あんたか。そうだな~“シュン・ファヴリオ”アンタの後任って言えば分るか?先・輩」


青年がアルファの顔を確認し、見覚えのある顔だと言わんばかりにそう話す。


(シュン?後任?そういえば、こいつの顔どっかで…!!そうだ。脱退する時に一度だけ顔合わせした奴だ)


アルファは以前、国王直属の護衛騎士をしていた。

彼はその後任であった。

アルファ自身は脱退時に一度顔合わせしただけだったのですっかり忘れていたが、後任という言葉を聞いてようやく思い出す。


(だけど護衛騎士がここにいるんだ?何故こんな子どもを狙ってる?意味が分からねぇ…)


何故護衛騎士がここにいるのか謎だったが、少女を狙っていたことは違いない。


「こいつをどうする気だ!」


アルファは何故この子どもを狙っているのか疑問に思ったが、その子をどうするのかの方が気になり尋ねる。


「どうって決まってるだろ。殺すんだよ」
「「!!」」


にやりと笑い言われた言葉に二人は鋭い眼差しになりシュンを睨む。


「ルア、そいつ背負って行けるか?」
「大丈夫よ」


ルアに子どもを連れて逃げろという意味を含めて言うと、彼女も分かっていた様子で、二つ返事で答えると少女を抱えて走りだす。
アルファは腰に差していた剣を抜くとシュンへと向ける。


「… …」
「ありゃ?闘る気満々?」


それに彼も良いぜと言わんばかりに大剣を構えた。


「あんたとは殺り合ってみたかったんだよな!」
「はっ、そんなら望み通り闘り合ってやるぜ!」


楽しそうに狂喜の笑みを浮かべて駆け込んでくるシュン。

「やる」の意味を完全に勘違いしている。アルファはそう言うと剣を持つ手に力を込めて迎え撃った。