小説「Axis of Fate」

案/絵/編集:たみぽん。文:水竜寺葵。オリジナルファンタジー小説。更新は約月1ぐらいです。

第1話⑤「始まりの道①」 Axis of Fate~大樹物語~

そして現在3909年イリンシュレイ国、王都下町にある小さな冒険者組合(ギルド)【ハイ・マート】その地下にある寮のベッドの上…


「っ!!」


青年は夢から覚めると同時に飛び起きる。
とっさに首筋を触る…夢で最後に〝奴〟に傷つけられた箇所。

だがそこには何もない。


(あの日の夢… …?)


腰下まである黒髪を1本にまとめ、右頬にはタトゥーが彫られている。

この青年は【アルファ】という。


(…ったく、夢見が悪いぜ…)


彼はベッドから起き上がると、壁に掛けられている黒いロングコートを手に取り羽織る。
そして旅支度をした荷物を持って部屋を出ると階段を上りギルドへと行く。


「あら、おはようアルファ」
「ロゼ、おはよ」


階段を上がるとそこには紅色の長い髪を1つに結い上げ、同じ色の瞳で高身長のギルドマスター【ロゼッタ】がいた。

にこやかにあいさつを交わす彼女へと彼は淡泊に返事をする。


「…やっぱり行ってしまうのね」
「ああ…」


ロゼッタは彼の持っている荷物を見ると寂しそうな顔で言う。

アルファはそれに短く答えた。
今日は国王が演説するという当日だ。

正午から王宮の広場で行われる。


「しばらく留守にするが、あいつ等なら大丈夫だろ?」
「えぇ…でも主戦力のあなたがいなくなるのは(経営的に)痛いわね」


彼の言葉に含みを持たせながらロゼッタが話す。
他の仲間達の実力を知っているアルファは自分がいなくても大丈夫だろうと思っているのだ。


「はは…戻ってきたらその分働くさ」
「ふふっ期待してるわよ」


苦笑いして話す彼の言葉にロゼッタが笑顔でハートを飛ばしながら言う。
話をしていると、

 

「ねえ?何の話してるの?」

「!」


急に割り込んできたのは桃色で腰上まである髪をパッツンにそろえ、薄紫の大きな瞳、そして明るい赤の服を着た小柄な女の子【ルア】が二人の間に入ってきた。
買い出しをしてきたのかその腕には食材の入った大きい紙袋を抱えている。

突然声をかけられたアルファは一瞬驚いたが、相手がルアだと分かるとほっと息を吐き出す。


「なんだルアか…」


仲間達に何も言わず旅立つつもりだったので相手が彼女だったことに安堵するアルファ。


「なんだとは何よ!?…って何その荷物?」


彼の言葉にムッとしたルアだったが彼の荷物を見て問うた。


「それはだな…」
「彼、しばらく旅に出るって言ってるのよ」


目線をそらし返答に困っているとロゼッタが助け船を出す。


「へぇー…仕事はどうすんのよ?」
「お前たちに任せた」


探るような眼差しで問いかけるルアへとアルファはその視線に気づかずに答える。


「まぁいいけど…力仕事は男達に任せるし…」


何かを感じ取った彼女が口では納得したように答えるとじっと彼を見詰めた。


「じゃあ行ってくる」


アルファはそれに答えることなくギルドを出ていく。


「行ってらっしゃい」
「…」


笑顔で見送るロゼッタの横で何事か考えこむよう黙り込み彼の後ろ姿を見送るルア。

アルファはそんな彼女の様子に気付くことなく王宮へと歩んでいくのであった。