第4話⑥「良からぬ噂」Axis of Fate~大樹物語~
翌日。ギルドに向かう前に本屋へと立ち寄り初級魔術書を数冊購入する。そして再び宿屋へ戻るとそれをサウスへと渡した。
「これで魔術の基礎を覚えておけ。読み終わったら魔法の猛特訓だからな、覚悟しておけよ」
「ありがとうアルファ。うん、ボク頑張って覚えるね」
宿屋で待つサウスに本の内容を覚えておくように言うと彼女が嬉しそうに笑い力強く頷く。
「それじゃあ、俺達はギルドに行ってくるからそれ読みながら待ってるんだぞ」
「うん」
彼が言うと踵を返して部屋から出ていく。その背中へと向けてサウスは大きな声で答えた。
「今日は何を受けるあるカ?」
宿を出てギルドへと向かう最中スゥが尋ねてくる。
「採取クエストでも受けるか。それともまた討伐か…まぁ仕事内容と報酬によるな」
「仕事内容と報酬が違うケド、どう違いあるカ?」
アルファがそれに答えると彼女は不思議そうに首を傾げた。
「やっぱり依頼人によって掛けられる金額が違うし期日も違う。この町に長く滞在するわけじゃないからできるだけ早く終わる依頼を選びたいからな。だから短期間で稼げる仕事に限るな」
「成る程…よく分かったヨ。つまり一攫千金あるネ!」
すらすらと説明された言葉に納得した様子で頷くスゥ。
「一攫千金ではないんだが…まぁ、いいか」
しかし微妙に勘違いしていることに説明するのも面倒だと思った彼が呟くと黙り込む。
そうしてギルドへとやって来ると今日受けられる仕事を探し登録する。
数十分後アルファ達の姿は町の外にあり彼等の背中には子供が一人、軽々と入るくらいの大きさの籐籠を背負っていた。
「町周辺に生息しているマイマイ茸を籠一杯に採取…で、よかったカ?」
「ああ。マイマイ茸はうっそうとした森の中の湿った場所に生息するキノコだ。でも似ている毒キノコがあるから間違えるなよ」
スゥが仕事内容の確認をしてきたのでアルファはそれに答えると説明する。
「ワタシの鼻に任せるあるヨ。さっき貰ったこのマイマイ茸の匂いを嗅いで…」
彼女が任せろと言わんばかりに先ほど見本だと言ってもらった乾燥したマイマイ茸を取り出し匂いを嗅ぐ。
くんくん…
「うん、覚えたアル」
「お前は犬か!…まあいい。探しに行くぞ」
その様子に彼が盛大に突っ込むも気を取り直して森の中へと入っていく。
「検索開始アル!」
スゥも元気いっぱいに宣言すると生息場所である湿った場所へと向けて歩き出した。
スゥの人間離れした嗅覚により難なくマイマイ茸けをゲットし、町へと戻りギルドで採取したキノコを渡し報酬を貰い宿へと帰った。
そしてアルファ達が町に滞在して丸2日が経過し、ルアが作っていたサウスの新しい服が完成する。
「サウス。ちょっとこれを着てみてくれないかしら?」
「へ?」
にこにこと笑いながら彼女の前へと服を差し出す。意図が分からずサウスは呆けた顔をした。
「アルファがね、そのマントで町を出歩くのは目立つからって。私があなたの新しい服を作ったのよ」
「そうだったの」
ルアの言葉でようやく理解ができた彼女が嬉しそうに仕上がったばかりの服に袖を通す。
基本は今までの服に猫耳フードとズボンにはフィッシュテールスカートを付け、胸の中心とアームカバーには可愛らしいリボンが付いているデザインだ。
「サウス様、可愛いあるヨ!」
「うん。思った通り似合ってるわ。ねえ、アルファもそう思うでしょ?」
スゥがハートを飛ばしながら言うとルアも微笑みアルファに同意を求める。
「ああ。この格好なら誰にも耳と尻尾の事がバレないだろうな」
それに彼が頷くとそう話して笑う。
「嬉しいな。アルファ、ルア。ありがとう!ボクこの服を着て外に出て…あ、そうだ!ねえボク、アルファと一緒にクエストしてみたいな」
新しい服に浮かれてはしゃぐサウス。
「はっ?…あー、そうだな。せっかく新しい服に着替えたんだし外に出てみるのもいいかもな」
クエストに一緒に同行したいと頼まれ一瞬驚いたものの小さく頷き了承する。
「それなら今日は皆で行くあるヨ」
「でもいきなりサウスにクエストって難しいんじゃない?」
スゥがそう提案する横でルアが考え深げに話す。
「まあ下級クラスくらいならいけるだろう。さすがに戦うのは難しいかと思うから町の中でのクエストとか、か…」
それにアルファがそう答えると、とにかくギルドへ行ってから仕事内容を見て決めようということになった。
「じゃあ私は市場に買い物に行ってくるわね。旅支度を整えておかないと」
「わかった。そっちは任せるぞ」
ルアが言うとアルファはサウスとスゥを連れて宿を出たのだった。