小説「Axis of Fate」

案/絵/編集:たみぽん。文:水竜寺葵。オリジナルファンタジー小説。更新は約月1ぐらいです。

第1話②「少女の姿」 Axis of Fate~大樹物語~

そんなある日のことーーー
コンコン…
少女の家の戸が叩かれる。


「こんなところに…客?」


少女と一緒に暮らす【兄】が不思議に思う。
この少女の兄は30代前半の中年で金髪に寝ぐせのような癖っ毛が特徴。

蒼の瞳は深海を思わせるように濃く、うぐいす色のシャツとボレロ、クリーム色のダボっとしたズボンを着て、片眼鏡を掛けている。

彼は考古学者でよくフラッと出かけては2、3日留守にすることが多かった。
しかしそんな彼らが暮らす場所はイリンシュレイ国の辺境。

人里からかなり離れた山の中、なかなか人が訪れるような場所ではなかった。

兄に「隠れていなさい」と言われた少女は、自室に閉じこもる。

兄は来客に対応する為、戸を開ける。そこには【王都からの使者】と名乗る男が居た。


「最近、空間異常現象が頻繁に起こるようになり、奴等の侵攻が酷くなってきている。国王はこのことをひどく気になされ、これを止めるための冒険者を募ることとなった。これは国民だけでなく世界中に住む者、全員が対象となる。よってこのことを全ての人々に通達しろとのお達しだ。10日後の正午、王都・イリンシュレイ王城の広場にて国王陛下自ら演説をするということだ」


「空間異常現象…つまりFateに関することですか…?…それで、こんな辺鄙な所にも使者が送られてきたということですね」


「あぁそうだ。知っているなら話が早い。陛下直々の命だ、是非とも募ってくれたまえ」


「国王の命…考えておきましょう」

 

「いじょーげんしょー?ふぇいと…?」


扉ごしに聞こえてくる兄と使者とのやり取りを聞いた少女はそっと呟きをこぼす。
(もし、あの場所が【フェイト】とボクの【この姿】との関係があるのかな?…それなら)

少女は決意すると使者が帰っていた後、兄と話すため彼の下へとやってきた。


「お兄ちゃん…」


深刻な表情で声をかける少女。


「どうしたんです?」


「さっきの人のお話…」


「あぁ、その話なら気になさらずに。私は志願するつもりなんてありませんよ。これからもここで、あなたと暮らす。ですから…」


使者との話を気にしているのだと勘違いし、安心させるように微笑み語る。だが少女は兄の話を遮る。


「違うよ…ボクね。最近、同じ夢を見るんだ…それはキレイでフシギなところ…空が足元の鏡のような床がそれを映して、まるで空に浮いているかのようなところなんだ。その中心に1本の大きな樹があってね、ボクがその樹に向かって歩いていくと、樹のしたに髪の長い女の人がいるんだ。だけどその顔はどこか悲しげで…僕に向かって何か話しかけてくるんだけど…」


「… …?」


「その言葉が聞こえなくてもっとよく聞こうと近づくと、目が覚めて…」


頭を振り、話し出した妹の姿を無言で見つめ、兄は何が言いたいのかと不思議そうな顔をした。


「それで、ボク。その女の人の所に行けばなにか分かるんじゃないかって…うんん。あの人が呼んでいる…そう思ったんだ。だから、今世界で起こっている【いじょーげんしょー】とボクの人とは違うこの姿…それと関係しているなら、ボクはボクの真実を知るために旅に出たいと思うんだ」

 

『人とは違う姿…』


そう…この少女は普通の人間とは姿が違う。

顔や手足は人間のようだが、彼女には猫のような耳と尻尾が生えている。
13年前の【Fate】と呼ばれる事件。この事件では空間異常現象により別空間から来たと思われる、人でも魔物でもない姿をした【裏】と呼ばれる者たちが次々と村や町の住人を襲ったというもの。

その者等に家族を奪われ、恨みを持つ者も多い。そんな中、彼女の姿を見られれば何が起きるか分からない…

 

「…何を言い出すのかと思えば…そんなこと認めるはずがありません!あなたのその姿を見られればきっと…っ。今起きていることで皆、殺気立っているんです!そんな中あなたを旅に出させるなんてこと…できるわけがないでしょう!」


少女の話しを聞いた彼が小さくため息を漏らした後、怖い顔をして怒る。


「お兄ちゃん!」


「だめです!そんな危険な事をあなたにさせたくはない!」


何とか旅の許可を貰おうと食って掛かる少女だが、兄は一刀両断する勢いで言うと怒って部屋を出ていってしまう。


「お兄ちゃん!」


その背中へ向けて彼女は叫んだ。


「お兄ちゃんに反対されようとボクは…」


そう呟くと少女は自室へと戻って行った。